テストの成績が悪い学生、落ちこぼれてしまう学生というのは、「家庭のせい」「才能がない」「努力が足りない」というわけではありません。それ以前に、「否定的なシグナル」を受け取っているかどうかが極めて重要になってきます。「自分はできない」「平凡だ」というノイズのようなシグナルを受け取り続けていると、その考えが繰り返し刷り込まれていきます。
社会心理学者のローラン・ベーグは「自分自身に対する考えはかなりの部分を他人の判断に依存」していると指摘します。スティールが証明したのは、この誤った判断を断ち切ることの大切さです。
また、心理学者のアン・クリスティン・ポステンは、環境のシグナルというのは私たちがそれを信じたときにだけ影響を及ぼすという事実を明らかにしています。いわく、環境に潜むすべてのシグナルは、それを受け取る側が「これは自分に送られたシグナルだ」と考えたときにだけ影響を与えるといいます。つまり、否定的なシグナルでも、自分に向けられたものだと認識しなければ、個人には何の効果もないことがはっきりしているのです。
基本的に私たち人間は社会のシステムを信頼するように刷り込まれて育っています。しかし、本来私たちはそのシグナルを受け入れることも、拒絶することも自由なのです。「今いる場所」が私たちのすべてではありません。まずはそれを思い出すことが、あらゆる環境から抜け出すための第一歩になるでしょう。
周りからの「否定的なシグナル」を断ち切ったとしても、「自分は普通だから」「凡人だから」と、なかなか次に進めないような気持ちになることもあるかもしれません。人間の動機づけ理論について世界中で最も多くその研究が取り上げられている心理学者に、アブラハム・マズローがいます。マズローは、私たち自身が自らを平凡だと思い込み、偉大な夢を抱こうとしない姿を「ヨナコンプレックス」と呼んでいます。
聖書に登場するヨナは、重大な使命を与えようと彼を捜す神の呼びかけに恐れをなして逃げようとする気弱な商人です。このように「人間は自身の弱みと同じくらい強みも恐れる」とマズローは説明します。そのため、夢を実現することを恐れ、ただ1日1日をどうにか生きていくだけで満足してしまうというのです。マズローの説明をもう少し詳しく聞いてみましょう。
「私たちが心の奥底で恐れているのは、自分が不十分だということではない。自分に想像以上の能力があるということだ。闇ではなく、光が私たちを恐れさせているのだ。『自分は優秀で、器量もよく、才能があって、立派だ――そんなことがありうるのか?』この疑問に、私は問い返したい。実際、あなたがそうであってはならない理由がどこにあるのか?」
世界的アーティスト、スポーツ選手、ずば抜けて優秀な同僚や同級生。そんな人たちを見ながら、自分もそうなれると素直に思った人はどれだけいるでしょうか?
そう思えないのは、闇にいることにすでに慣れてしまっているからです。私たちが本当に恐れているのは、闇から抜け出た人々が明るく照らす「光」です。その光が自分の中にもあることはわかっているにもかかわらず、ただそれを恐れているにすぎません。マズローが指摘しているのもまさにその点なのです。