恥ずべき話だけれど、経営者は従業員に、締め切りが融通の利くものかどうかや、もっと多くの有給休暇を求めることが可能かどうかを伝えない場合が多い。その結果、下級の従業者や女性といった、タスクに追い立てられているタイム・プア(時間的に貧乏)な人々は、より多くの時間を求める可能性がいちばん低い。けれど、求めるべきだ。交渉の研究者たちは長年にわたって、従業員が昇給を求める最善の方法を探ってきた。従業員は、時間についても同じぐらい積極的に交渉できるし、そうするべきでもある。
経営者が締め切りの延長依頼と有給休暇取得にどれほど理解があるかを知ったら、あなたは驚くかもしれない。実際には、従業者を失うコストは、短い休暇や少額の昇給を与えるコストよりもはるかに大きい。ワンダが仕事を辞めたくなかったのと同じぐらい、医師もワンダに辞めてもらいたくはなかった。
医師がワンダに望んでいたのは、事務作業をてきぱきとこなし、自分が大好きな仕事を楽しむ幸せな従業者でいてもらうことにほかならなかった。
もちろん、時間に融通を利かせたり、そのような従業者の求めを真剣に考えたりしたがらない職場もある。もしあなたが仕事を探しているのなら、時間に関する方針について必ず尋ね、そうした問題を考慮しない企業や、あなたの質問に戸惑っているように見える(あなたの時間の価値についてろくに考えたことがなさそうな)企業は疑ってかかるといい。それでも、この点であなたと進んで協調しようとする会社の数は、どの部門でも増えてきている。有能な従業者を求める競争が激化する中では、そうならざるをえないのだ。従業者がタイム・リッチな生活を送れるように支援するというのは、強力な求人ツールとなりうる。
締め切りの延長や有休取得を願い出るのを控える傾向をなくすためには、そうした依頼を当たり前のものにすることが肝心だ。広い意味で、仕事と生活の要求のバランスをとるために、もっと時間を求めてもかまわないという事実を伝えることが重要になる。仕事に圧倒され、このままでは絶対に時間が足りないと密かに思っている従業員には、それはけっしてあなただけではない、と言ってあげる必要がある。
締め切りの延長の依頼と休暇願いは、メールや1対1の会話で、内々に行われることが多い。その結果、従業員はそうした依頼がどれほど多いか、過小評価している可能性が高い。また、他の従業員が同じようなストレス要因をどれほど多く経験しているかも過小評価しがちだ。
経営者は従業員に、そういう依頼をするのは彼らだけではなく、時間を余計にかけるのはごく普通であることを知らせる必要がある。締め切りの延長を認めるのはありふれていることを伝えるのは、無能でやる気がない人間として槍玉にあげられるのではないかという従業員の恐れを和らげる、簡単で効果的な方法になりうる。
締め切りがどれほど厳しいのかは曖昧なことが多い。そのため、従業員は締め切りが変更可能かどうか知らないかもしれない。このような曖昧さに直面すると、たいていの従業員は、締め切りが変えられないといけないので、もっと時間を求めることを避ける(繰り返しになるけれど、女性や若い従業者は特に避けることが多い)。課題を与えるときには、上司は締め切りが調整可能なものかどうかを、はっきり伝えるべきだ。