「妖怪大戦争」で具現化したKADOKAWAのIP戦略

角川歴彦会長とともに製作総指揮を務めた小説家・博物学者にして、妖怪研究の第一人者である荒俣宏氏は、妖怪のみならず、考古学、地質学、歴史学などをベースに「武蔵野3万年の自然と文化と歴史」をテーマとしたスケールの大きな物語をつむぎ出した。

ちなみに、KADOKAWAが手がける雑誌「武蔵野樹林」2021年夏号には、映画の背景となる所沢と妖怪との関連性などが歴史的、地質学的、考古学的にも詳しく、アカデミックに解説されているので、映画の背景を知りたい人には一読をお勧めしたい。

“ポップカルチャーの発信基地”として位置づけている複合施設・ところざわサクラタウンには、KADOKAWAのオフィスや角川武蔵野ミュージアムといった施設が集まる (筆者撮影)

三池監督自身は、KADOKAWAから「所沢を舞台にしてほしい」と直接要請されたことはなかったというが、それでも物語作りを進めるうえで、東京の一歩手前で妖怪獣を止める場所が所沢だというのは、確かに腑に落ちるところがあったとインタビューで語っている。所沢ありきでプロジェクトが始まったわけではなく、さまざまなパズルのピースが噛み合った結果として所沢が重要な拠点となったという。

所沢中心にリアルイベント開催

一方、所沢には2020年11月に“ポップカルチャーの発信基地”として位置づけている複合施設「ところざわサクラタウン」がグランドオープンし、その中に入るKADOKAWAの新オフィスも稼働を始めた。

角川武蔵野ミュージアムで開催中の「妖怪大戦争展」 (筆者撮影)

KADOKAWAと所沢市は、緑・文化・産業が調和した「誰もが住みたい」「訪れてみたい」地域作りを進める「COOL JAPAN FOREST構想」という共同プロジェクトを立ち上げ、その拠点施設として竣工された施設がところざわサクラタウンだ。

本作でも、所沢市が「ロケ地紹介」「東所沢駅前の大魔神像設置」「世界妖怪会議」などで協力体制を敷いており、武蔵野の中央たる所沢の更なる文化創造、文化振興につなげている。また地元・所沢の小学生が「所沢にいそうな妖怪」を考える「角川むさしの妖怪絵コンクール」なども行われ、約500作品の応募があった。優秀作品に選ばれた妖怪のうちのいくつかは、実際に映画にも登場しているという。

今回の『妖怪大戦争 ガーディアンズ』の宣伝においても、KADOKAWAが得意とする「出版」「映画」という強力タッグにプラスして、「リアルイベント」というもう1つの軸を加えている。

ところざわサクラタウン内にある角川武蔵野ミュージアムでは、「妖怪大戦争展2021 ヤミットに集結せよ!」を開催中。映画のセットや衣装などが展示されるほか、47都道府県に伝わる妖怪の解説、さらには妖怪に関する古文書など貴重な資料などが数多く展示されている。

また、8月7日にはところざわサクラタウン内にも「魔神像」と「武神像」が登場。インスタ映えするフォトスポットとして多くの観客が来場。記念撮影に興じていた。

「やはり妖怪の話をするとみんな平和になる」と語るKADOKAWA文芸・映像事業局担当執行役員の堀内大示局長 (筆者撮影)

その他、妖怪3部作と大魔神3部作の4K修復版など、過去の大映特撮アーカイブを振り返る「妖怪・特撮映画祭」や、声優の水島裕プロデュースの朗読劇「風の聲 ~妖怪大戦争 外伝~」を実施している。

今回はKADOKAWAの一大プロジェクトということで、グループの垣根を越えた協力体制が敷かれた。会議の場では「妖怪文化をいかに広めるか」という議題をもとに、活発な意見が交わされたという。KADOKAWA文芸・映像事業局担当執行役員の堀内大示局長も「やはり妖怪の話をするとみんな平和になる」と語るなど、妖怪を通じて思わぬコミュニケーション効果があったことを明かす。

IPを活用した作品を開発中

実際、7月から8月にかけて、KADOKAWAが出版するほぼすべての雑誌、およびウェブサイトに、妖怪のイラストキャラクターが登場する企画も実施されている。

KADOKAWAが出版するほぼすべての雑誌、およびウェブサイトに妖怪が出演 (筆者撮影)

IPのさらなる展開も進めている。

ここ数年でも『ぼくらの7日間戦争』『ジョゼと虎と魚たち』といった実写映画をアニメ化するなど、過去の豊富なIPを生かしたユニークなマルチメディア展開を行っているKADOKAWA。堀内局長は「KADOKAWAのIPを活用した作品で開発中のものは複数ある。どの作品を選んで、どの時期にやるかというのは現時点では言えないが、『妖怪大戦争』級の作品もありますので、ぜひとも楽しみにしてもらいたい」と、IPを生かした作品をさらに世に出していくことを示唆する。

豊富なIPコンテンツを有するKADOKAWAが、今後はどんな作品で驚かせてくれるのか。今から楽しみだ。