テント用品大手のスノーピークが快走している。8月12日に発表した2021年12月期の中間決算は売上高が前年同期比77.6%増の116億円、本業の儲けを示す営業利益は6.1倍の16億円。4期連続の最高益に向けて突き進んでいる。
好業績の主な要因は、コロナ禍による3密回避のキャンプ需要の高まりに加え、昨春、社長に就任した創業家3代目、山井梨沙氏(33)が3年前から続けてきたある戦略があった。東証1部上場企業の中では飛び抜けて若い社長である山井氏に展望を聞いた。
スノーピーク創業の地は、金属加工の町として知られる新潟県三条市。JR燕三条駅から車で30分ほどの丘陵地帯に建つ本社の敷地内には、約5万坪のキャンプフィールドが併設されている。「スノーピーカー」と呼ばれるコアなファンからは「聖地」と呼ばれ、憧れの場所だ。
スノーピークは山井太会長の父、幸雄氏が前身となる金物問屋を1958年に創業。幸雄氏の趣味でもあった登山用品を開発していた。社内起業の形で太氏がオートキャンプ用品の製造に本格的に乗り出したのが1988年のこと。「当時、キャンプといえば学校で行くものという感じで、あまりいいイメージがなかった。自然の中で豊かな時間を過ごすキャンプスタイルをつくりたかった」(太氏)。
テントも雨漏りしたり縫製が雑だったりと、いいものがなかった。ならば自分が、と太氏が初めて開発したテントは16万円。当時、一般的なテントが2万円だったというから8倍の値段だ。それにもかかわらず、初回から2000件のオーダーがあったという。以来、同社のテントやキャンプグッズは、機能性を重視した高価格帯路線を貫いてきた。
今ヒットしているのはリビングと寝室で2部屋に分かれ、4人ほどが寝られる「ツールーム」と呼ばれるテントだ。これまでスノーピークのツールーム型テントは15万円を超える製品が主流だった。しかし、2018年に初心者向けに発売されたものは8万7780円(税込み)と、スノーピークとしては破格の値段だ。ほどよくハイスペックで、軽量かつ設営ステップが簡単といったポイントが支持されている。
キャンプは釣りやバイクなどと並び、コロナ禍で人気のレジャーになった。スノーピークの好業績も「コロナの追い風を受けているから当たり前では」と見る向きもある。しかし、現場を取材してみるとそう単純なことではなかったことがわかる。
副社長CDOだった山井氏が、父である太氏(現会長)に代わり社長に就任したのは昨年3月末。新型コロナウイルスの感染拡大で、就任直後から難しいかじ取りを迫られた。「役員報酬のカットや経費削減など、守りの戦略は打てた。でも攻めの戦略がほぼゼロだった」と山井氏は振り返る。
スノーピークは直営店やアウトドア用品店など、実店舗での販売が中心だ。テントや焚火台を買う人は、店頭で手に取って確認したいというニーズが強いためだ。しかし、最初の緊急事態宣言が出た2020年4~5月には、9割超の店が休業する事態に直面した。
同社は熱狂的なファンを作る「ファンビジネス」で成長してきた会社でもある。購入金額に応じて6つのランクに分かれるカード会員数は2021年6月末で約58万5000人に上る。得意客を招待するキャンプイベントは年間30回を超えるが、このイベントも中止せざるをえなくなった。