日テレ藤井アナ「相手に本当に届く」言葉の選び方

藤井アナがコロナ報道で大切にしていることとは?(写真:Fast&Slow / PIXTA)
「命より大切な食事会、パーティーはございません」
「感染者数に一喜一憂しないでください。この数字は2週間前の結果です。私たちは2週間後の未来は変えることができます」
日本テレビの夕方のニュース番組で藤井貴彦アナウンサーが発信するメッセージは、連日多くの視聴者の心をとらえ、反響を呼んでいます。
こうした報道姿勢が支持を集め、2020年には好きなアナウンサーランキングに27年目で初めてランクイン、3位となった藤井アナ。彼の初の著書『伝える準備』では、日々実践している“思いが伝わる言葉のつくり方“を、豊富なエピソードとともに紹介しています。
本稿では同書から一部を抜粋しお届けします。

コロナ報道で大切にしていたこと

テレビは多くの人にご覧いただいていますが、スタジオにいる私たちは、みなさんのお顔を拝見することはできません。だからこそつねに、「この言葉は本当に届いているのか」と自分に問いかけています。

新型コロナウイルスの緊急事態宣言が出されたとき、テレビ画面は「人の少ない渋谷のスクランブル交差点」を映し出しました。この交差点をどう表現するか。アナウンサーによって、テレビ局によって、それぞれのスタンスがありました。

あの緊急事態宣言の状況下ですから、異様な光景とするか、あるべき光景とするか、単に「人がいません」とだけ言うか。

そんな中、私が大切にしていたのは、たくさんの人の立場から言葉を選ぶということでした。

医療従事者は、飲食店経営者は、学校の先生は、感染症の専門家は、ご高齢の方々は、赤ちゃんのいるお母さんは、渋谷の交差点をどんな思いで見ていたのか。いろいろな立場の方の顔が浮かびました。でも、あちらを立てればこちらが立たずの堂々巡りで、言葉が決まりません。

結局、私は「今テレビを見ているみなさんのご協力で、人との接触が防げています」

と、お伝えしました。この交差点にいない人は、テレビの前にいるかもしれないと思ったからです。

もっと多くの人に伝わるメッセージもあったはずです。しかし私の言葉は、テレビをご覧になっている方にしか届きません。だからこそ、今時間を共有しているみなさんにメッセージを伝えようと考えたのです。私は、誰かを批判することよりも、誰かを励ますことを選びました。

この言葉に対する嫌悪感もあると思います。

しかし私は、「政府にはしっかりとした対策を求めたいものです」といったようなコメントで、いただいた数秒の機会を消費したくなかったのです。

見栄えのいい言葉だけが届くのではなくて、鋭い批判だけが力を持つのではなくて、相手を頭に思い浮かべた言葉こそが届くのだと信じています。

Q.あなたが言葉を届けたい人は誰ですか?

「現場取材」で大切にしていること

私が本格的に夕方のニュース担当になったのは30歳を過ぎた頃でした。考えてみると、20年近くニュース現場での仕事が続いていますが、その間、いろいろなニュースで取材に出ました。近年は地震や豪雨などの自然災害が多く、悲しい現場にも直面します。そんな状況ですから、取材には細心の注意を払ってきました。

例えば、ドラマなどで見る報道取材クルーは、カメラを担いでどんどん被災地に入っていきますが、私たちはそうしません。

カメラマンにはまず、被災地全体の撮影をお願いして、その間に私とディレクターだけで、マイクも持たずに道を歩き、お会いした人に「お話だけ」を聞くのです。

災害発生直後は、その不安からか、被災されたみなさんが普段より多く、話をしてくださいます。でも、取材を終えてからしばらくすると、自分がたくさん話してしまったことを後悔される人もいます。またその一方で、すでにほかのメディアがずんずん被災地に入ってしまって、被災されたみなさんのマスコミに対する感情が悪化している場合も多くあります。