ですから、まずは、そこで生きてきたみなさんがどんな気持ちでいるのかを理解してから取材したい、そんな思いが強いのです。私たちは、自分たちの都合でカメラを回し始めないようにしています。
一方で、あるとき、地震で被災したご自宅の前にいた60代の男性に、どんな揺れだったか、どうやって逃げたのか、ご家族は無事だったのかなど、許可をいただいたうえでお話を伺っていると、逆に私たちのことを心配するような顔で、こんなことをおっしゃいました。
「テレビなのにカメラ回さなくていいのかい?」
もちろん、カメラを回したいとは思っています。でも、被災された方との関係がしっかり構築できてからじゃないと、やっぱりカメラは回せないのです。
何回か一緒に取材に出てくれているカメラマンは、それがわかっていて、遠くから「いつでもいけるよ」とスタンバイしてくれています。カメラマンによっては、商売道具のカメラを地面に置いて、一緒に話を聞いている人もいます。
この方法だと、カメラを回し始めるまでどうしても時間がかかるのですが、お気持ちを聞いたうえでのお話には「本当の言葉」があふれます。
表情からは想像もできないほどのつらい思いや、それでも前を向きたいという気持ちが、ご自身の言葉となってあふれてくるのです。
そうなるともう取材ではなくなり、1人の人間として聞いています。だから、カメラが回っていてもあまり関係なくて、自分にできることは何かを真剣に考えるようになるのです。
そのようにしてお話を聞くことができた方々とは、その後も、長くお付き合いが続いています。
もし私が、日本を代表する知名度の高いキャスターだったら、こんな時間のかかるやり方は必要ないのかもしれません。でも、私がそんなすごいニュースキャスターになれたとしても、1人の人間として丁寧に取材をしたいと思っています。