なぜあの若さで金メダルが取れる程の実力がすでにあるのか?ベセラさんと共同でスケートボード教室を立ち上げた25歳のコーチのミッチェル・バスクさんはこう説明する。
「今の若い子たちは、インスタグラム上で、同じ年頃の子どもがすごい技を軽々とやってのける映像を見て育ってきた。しかも自分の指先を動かすだけでスマホ上でそんな映像が無限に見られる環境でね」
ちなみに、バスクさんが子どもだった20年前には、インスタグラムもYouTubeもなく、同年代のスケーターたちの技をネット上で頻繁に見ることはできず、ときどき、テレビ放映でプロの大会を見るチャンスがある程度だったという。
彼が最初にボードに乗ったのも12歳と遅かった。
「今の子は何もかもが違う。例えば9歳の子が15段ある階段の手すりを華麗に滑り降りていく映像がネット上にある。そしてそれを見て、同じ年の自分だってできる、と思う子がいる。子どもは限界にとらわれない。テクノロジーの発達とともに、素晴らしい技の映像を見る機会が飛躍的に増え、それによって、技の進歩もぐっと加速したんだ」
市内に20を超える公営スケートボード・パークがあるロスの最大の利点は、そんなパークにプロ・スケーターたちやうまいスケーターたちが頻繁にやってくることだ。
中でもスケーターたちの聖地といわれるのがベニスビーチのスケートボードパークである。現地に行ってみると、平日の昼にもかかわらず30人ほどの老若男女のスケーターたちが滑っていた。
年齢は7歳の男児から60代の女性までと実に幅広い。白人、黒人、ラテン系、アジア系など、さまざまな人種、あらゆる体型のスケーターたちが仲良く声をかけ合い、笑顔だ。ロスのスポーツ風景はこれまでかなり見てきたつもりだが、これほど参加者の多様性が豊かなスポーツを目の当たりにしたのは初めてだ。
海岸の砂浜の中に、階段や手すりなどがあるストリート型の設備と、複数の深い鉢状のパーク型の設備があり、どちらも無料で滑ることができる。パークの外側の手すりをぐるっと観衆や観光客が取り巻き、技が決まるたびにヒューッっと歓声が上がる。まるで野外劇場のような空間だ。
「うちの息子たち、10時間ぐらい平気でずっと滑ってるよ」と言うのはブラジル出身でベニス住民のマルセル・ボルペさんだ。10歳の長男カウエ君と7歳の次男ザイアン君は大人に混じっても臆することなく次々に技を披露している。
父親であるマルセルさん自身はスケーターではなくサーファー歴40年。いい波が来ると、なじみの仲間たちに子どもたちの面倒を頼んで、目と鼻の先の海に、ちょっと波乗りに行くこともある。なぜ息子ふたりがスケートボードにはまったのかと聞くと「スリルがあって自由で、型破りな雰囲気で楽しいんだろうね」と答えた。
バック・フリップを覚えつつある次男ザイアン君の滑りをスマホで撮影するマルセルさん。その映像を息子のインスタグラムにアップしていた。「最近作ったばっかりのアカウントなんだけど、誰か見てくれればいいなと思って」と見せてくれた画面のザイアン君の技のビデオは、すでに72人が視聴済みだった。
まったくの無名のほぼ初心者の7歳男児の滑りをこれだけ多数の人が見ていることに驚く。ビデオの下につけた「ベニスビーチ」のハッシュタグが絶大な効果を生んでいるのか?