臨床心理士、公認心理師である松島雅美氏は、発達障がいや学習不振を抱える子どもたちの支援に取り組む一方、パフォーマンス向上を目指すアスリートのサポートも実践している。サポートしているアスリートの中には、今回の東京オリンピック日本代表のフェンシング、野球、バレーボールの選手等も含まれるという。
彼女が提唱する「メンタルビジョントレーニング」は、こうした子どもたちやアスリートの間で数多くの実績を上げているという。いったいどのようなものなのだろうか。
「『ビジョントレーニング』というのは、眼から入った情報を脳が的確に処理してスムーズに動作できるようにするトレーニング法で、昔からあるものです。ただ専門性が高く、指導できる人が少ないため、なかなか日本では普及していませんでした。これを一般の人にもわかりやすく、かつ、メンタル機能向上の効果も取り入れたのが『メンタルビジョントレーニング』です」(松島氏)
トレーニング内容は多岐にわたるが、たとえば親指を使った眼球ストレッチがある。
まずは眉間から30cmぐらい離れた場所にグッドサインの要領で親指を立てる。そして親指の先に両目の焦点を合わせる。焦点を合わせたまま、首を左に回していく。こうすると眼球を支える筋肉が左に伸びるのを感じるはずだ。続けて、右、上、下と同様の動作を実行する。これを続けていくと体の歪みも改善するという。
眼の使い方には個々で差があり、眼球の筋肉が凝ると同じような方向を見る癖がつく。体は視線のほうに傾くようにできているので、それが体の歪みにつながる。目線はバランスの重要な要素でもあるため、眼球の筋肉をほぐすことで、眼の使い方の癖が修正され、体の歪みも改善されていくのだ。
「体が歪んでいては思うように体を動かせませんし、姿勢が整わないと心も整いません。ですから、まずはこのストレッチを準備運動として行うことを推奨しています」(松島氏)
体の歪みが取れるということは、バランスがよくなるということでもある。都内のある私立高校のアスリート科でメンタルビジョントレーニングが必修科目となった。授業の第1回と最終回に行った視覚機能チェックの結果を比較したところ、最も伸びたのが陸上部だった。