誰も、エンジンの5%が不具合の飛行機には乗らないだろう。あなたのエンジンを、そんな欠陥状態のままにしておくべきでもない。
脳にもたくさんのビタミンD受容体がある。ビタミンDは脳内で抗酸化レベルを調節し、酸化ストレスを中和して緩和する。アルツハイマー病やALS(筋萎縮性側索硬化症)に伴う、神経細胞の過剰な活動も抑制する。また、免疫細胞を刺激して、アミロイドβを除去する。これは、アルツハイマー病を引き起こすとされているタンパク質だ。
最近のメタ分析のひとつは、アルツハイマー病の最大の環境リスク要因として、ビタミンD不足をあげている。健康で血中ビタミンD濃度が正常な人の場合、歳を重ねても認知能力が高く、その低下速度も2~3倍遅いという。
さらに詳しい研究が必要だろうが、プラセボを用いた少人数の実験では、血中ビタミンD濃度の低いアルツハイマー病患者に、1日わずか800IU(IUは国際単位)のサプリを12カ月間処方しただけで、症状の進行を妨げたという研究結果もある。
最近、自己免疫と呼ばれる免疫系の異常が増えている。自己免疫とは、免疫系が変調をきたし、あなた自身の細胞や臓器を攻撃するというからだの反応で、世界中で何百万人もの人たちが、多発性硬化症や炎症性腸疾患、関節リウマチなどの自己免疫疾患に苦しんでいる。
これらの原因は、正確にはわかっていない。しかしこのところ注目されている説は、人生の早い時期に土や泥と親しむことが減って、体内の免疫系と土壌のバクテリアとが充分に相互作用しなくなったからだというものだ。
そしてもうひとつは、私たちが充分に日光を浴びていないという指摘である。自己免疫疾患の患者は、たいていビタミンDの濃度が低いという。
ビタミンDと自己免疫との関係については、さらなる研究が待たれるが、一部の自己免疫疾患に対して、ビタミンDは治療手段となるか、少なくとも進行を抑える役には立ちそうだ。
約4000人の成人を対象にしたある大規模な調査では、ビタミンDが不足すると、その後の4年間で抑うつの発症リスクが75%も増加することがわかったという。
相関関係は必ずしも因果関係を意味するものではないが、薬物治療、慢性疾患、身体活動などほかの関連を調整したあとでも、やはりビタミンD不足と抑うつとのあいだには、深い関係が見られた。
ビタミンDは神経伝達物質の生成と調達を助ける。そのうちのひとつがセロトニンだ。この神経伝達物質が不足すると、抑うつ症状が現れる。
薬に頼るのもひとつの方法だが、抗うつ薬はセロトニンの量を増やしてくれるいっぽう、副作用があって服用の中止が難しく、過剰処方されやすい。
気分が落ち込むようなら、適度に太陽の光を浴びることをおすすめしたい。太陽の光は、体内時計を整えてくれると同時に、あなたの皮膚でビタミンDを合成してくれるからだ。
1日にどのくらいのビタミンDをとればいいのか。この問いに答える際には、まず適切な血中濃度の範囲を定義する必要があるが、残念ながら広く確立された最適な濃度というものはない。
2014年に32件の研究をメタ分析したところ、次のような発見があった。がんや心臓疾患など、さまざまな原因による早期死亡のリスクが最も低かったのは、ビタミンDの血清25(OH)D濃度が40~60ng/mlの時だった。50ng/mlに達すると、認知能力にも効果があったという。
これをビタミンDの摂取量に換算すると、ほとんどの人にとって1日2000~5000IUが、先の範囲をクリアすることになる(日本では4000IUまでとされる)。