私はニューヨーク市で生まれ育った。都会で過ごす少年時代は楽しかった。だが10代になると、都会の慌ただしい生活が心の健康にあまりよくないことを感じていた。
自然に触れる機会が少ないために、いつも自分が自然と切り離されているように感じ、長い冬には季節性のうつ症状にも悩まされた。
幸い、私の両親は都会を離れて過ごす時間を大切にしてくれ、まだ私が幼い頃に、ロングアイランドの東端に位置するレムセンバーグという小さな町に一軒家を購入した。週末はたいてい家族揃ってその家へ出かけ、松林のなかで遊んだ。
当時はまだぼんやりと感じていただけだったが、現代の科学は、自然との触れ合いが心身の健康に重要であることを証明しはじめている。
ここでは、日光を浴びてビタミンDを合成することが健康にすぐれた効果をもたらし、私たちのあらゆる器官に影響を及ぼすことを述べよう。
充分な量のビタミンDを合成するのは簡単だと思うだろう。ところが実際、アメリカ人の42%はビタミンD不足だという。それには、日焼け止めの使いすぎや、1日の93%の時間を屋内や車内で過ごすといった理由などもある。
老化の具体的な原因は誰にもわからない。だが最近では、過剰な炎症にあるというのが定説となっている。
もちろん炎症のレベルにはさまざまな要素が関係している。たとえば、社会的なきずなを築いている、健康的な食事や活動的な生活を心がけている、生きがいのある人生を送っている、といったことが指摘されている。だがさらに、ビタミンDもそれと密接に関係している可能性が高い。
米英の研究者が、2160人の女性の双子を対象にビタミンD濃度と炎症との関係を調べたところ、同じ双子であっても、ビタミンD濃度が高いほうが炎症レベルは低かったという。言い換えれば、同じDNAを持つ、同じ年齢の成人であっても、ビタミンD濃度が低いと老化が早く進むということだ。
とはいえ人間の老化の研究は明らかに難しく、これだけではなんとも言えないし、決定打ということもない。ビタミンDという変数が寿命に及ぼす影響を確かめるときには、人間と似ているが、もっと寿命の短い生物を対象に選ぶ必要がある。
その理想的な対象とされているのが線虫だ。体調約1ミリメートルで、寿命は2週間ほど。バック老化調査研究所の専門家は、充分に成長した線虫にビタミンDを投与し、驚くような発見をした。平均寿命がなんと33%も延びたというのだ。
ビタミンDは血液中に入ると、体細胞の受容体と結合する。この受容体は、すべての遺伝子の5%に当たる約1000の遺伝子発現に影響を与える。がんや心臓疾患の予防から免疫系の正常な機能まで、心身の健康と幸せな生活のほとんどに関係がある遺伝子だ。