「幸せな組織をつくれる人と不幸にする人の決定」(5月15日配信)では、幸せな人が多い組織ほど生産性や、1株当たり利益が高く、状況の変化にすばやく対応できることが、最新のポジティブ心理学や組織行動の研究から明らかになったことを紹介した。また、ウェアラブルセンサーを使った筆者らの研究により、幸せな人が多い組織には「人と人のつながりが均等で、いろいろな人どうしがつながり合っている」などの共通する特徴があると明らかになったことも述べた。
本稿では、幸せで生産的な組織には無意識の身体運動にも共通して現れる特徴があること、このことを発見したおかげで幸せをスマートフォンのアプリで計測できるようになったことを紹介しよう。
幸せを計測するうえで、われわれが注目したのは、時系列で見た身体の動きの特徴である。スマートフォンにもついているような3次元の加速度センサーを使えば、ある時刻に身体が動いているか、止まっているかを検出できる。この動いていることを「1」、止まっていることを「0」で表すと、人の生活や人生を、「1」と「0」が、時々刻々、生成される営みとしてみることができる。
たとえば、10秒ごとに動いているか止まっているかを計測し、これによって1分間の動きを表現すると「110011」や「000111」のような、「1」と「0」が6個続くシークエンス(配列)になる。1時間の動きは、この「1」と「0」が360回続くシークエンスに、さらに24時間は「1」と「0」が8640回も続くシークエンスになる。
われわれは大量の3次元の動きのデータを収集し、人の行動をこのように「1」と「0」の巨大なシークエンスのデータとして表現して、データベースに蓄積した。あわせて、幸せや不幸せを数値化する質問紙の尺度を人ごとに収集した。「今週、幸せだった日が何日ぐらいありましたか」とか「今週、孤独だった日が何日ぐらいありましたか」というような質問により個人の主観的な幸福度を数値化するアンケート結果である。そして、人工知能技術(機械学習)を使って、幸せな人や集団、幸せでない人や集団に特徴的な「1」と「0」のシークエンス(身体運動の配列)がないかを調べたのである。
その結果、幸せな集団に普遍的に見られるシークエンスの特徴や、逆に幸せでない集団に普遍的に見られるシークエンスを発見することができた。いわば「幸せの配列」や「不幸せの配列」があることを発見したのである。
まず、データを解析すると、人間の無意識の動きのシークエンスに、普遍的特徴があることがわかった。それは「身体の動きは、動き続けるほどに止まりにくくなる」という普遍性である。動きを表す「1」が続くほどに、止まることを示す「0」に転じにくくなるのである(これについては以前に寄稿した記事でも紹介した「会わないでいるとますます会いにくくなる理由」2019年10月9日配信)。
大量のデータを集めると、この1から0に転じる確率は、1が持続した時間の関数として、きれいな数式に従うのだ。