渋谷「ヤクルトのアイス屋さん」の意外な反響

「渋谷はご存じのように東京でも指折りの繁華街で、若者の街としても有名です。でも、“渋谷の文化”を象徴するものというと、今ひとつ。例えば原宿だと、cawaiiカルチャーやレインボーわたあめが思いつきますよね。渋谷にもこうした、『名物』を生み出したい。これがイマダキッチンの狙いなんです」(中島氏)

イマダキッチンで開発するメニューは、食べ歩きできる「ワンハンドフード」、かつ、かわいくて写真映えのいいものを要素として取り入れている(筆者撮影

実は同店が位置するSHIBUYA109渋谷店地下2階全体が2019年6月にオープンした「MOG MOG STAND」という食べ歩きを切り口としたフロアで、スイーツやジェラート、コラボカフェなど10店舗が出店。ちょっと腰掛けて食べられるイーティングスペースや、今の時代は欠かせない、フォトスポットを備えていることも特徴だ。

イマダキッチンで展開する食品も、手軽に食べ歩きができる「ワンハンドフード」。また味のみならず外見も重要で、かわいくてSNS映えすることが第一条件となる。話題性や口コミ力アップの狙いもあるが、「若い人に思い出をつくってもらいたい」というのが企画者としての気持ちだそうだ。

そのため同社では、SNS映えについても研究を重ねている。

「映える条件としては、鮮やかな色合い。とくに赤が決め手です。またモノを単体で撮るよりは、手に持って撮ったほうが、『いいね』をもらえることが多いんです」(中島氏)

もちろん、ヤクルトのアイス屋さんの商品も、SNS映えの基本をしっかり押さえている。

また、店舗装飾にもSNS映えを意識した工夫を凝らしている。周囲の壁には、制服を着た女の子、プールサイドの風景、カラフルなフルーツといったイラストのラッピングを施した。これも、背景にして撮ると商品がきれいに見えるよう意図して配色が考えられている。

SHIBUYA109エンタテイメント、マーケティング戦略事業部ソリューション戦略部の中島わか菜氏(筆者撮影)

加えて、まだ世に知られていない若手アーティストを起用していることもポイントだ。SHIBUYA109エンタテイメントでは15~24歳の若者で構成される「SHIBUYA109 lab.」というチームを抱え、若者の生の声を拾って、企画に活かしている。イマダキッチンの店舗装飾にも、インスタグラムの中から若者に選んでもらい、人気No.1のアーティストを起用するのだという。

では、今回のヤクルトのアイス屋さんの反響はどうだろうか。

「集客に関しては緊急事態宣言を考慮した対応も行っておりますが、ウェブメディアやSNSの反響は非常に高いです。とくに今回はいつもと客層が異なる点で特徴的です。イマダキッチンの客層は女性中心なのですが、今回は男女比で4対6と、男性が増えている。いつもの客層に加えてヤクルト好きの方が加わっているわけです。『これまでSHIBUYA109に来たことがなかった』という方もいらっしゃるようです」(中島氏)

海外からの反応が意外に高い

また面白いことに、海外からの反応が意外に高いのだそうだ。というのも、ヤクルトは1960年代に海外に進出。現在、海外では39の国と地域で現地生産を基本に商品を販売している。「ヤクルトレディ」による宅配も実施しているのだそう。

そのヤクルトにも、今回のコラボについてコメントをもらった。
「女性を中心としたプロジェクトチームによるブランド『三つ星Factory』にて、数年前から企画検討していた。そのような中でイマダキッチン様とコラボできる機会をいただき、実現に至った。今回のコラボを通じて若い消費者の方にヤクルトに興味を持ってもらい、接点ができることをうれしく思っている」(ヤクルト本社広報室)とのことだ。

なお、ヤクルト発売の「アイス de ヤクルト」を東急ストアにて取り扱っている。中身はイマダキッチンで提供されているアイスクリームタイプのものと同じだが、カップ入りのため持ち帰れる。数量限定で売り切れ次第終了となる。アイスの今後の展開については、今回の販売状況を踏まえて検討していくようだ。

このように、客層の裾野を広げることにも役立っている「昭和レトロ」。考えてみれば昭和期に大きく成長した企業や商品は多々あり、今後もさまざまな展開が考えられそうだ。

また今、ニュースと言えば新型コロナの話題で埋め尽くされている感があり、2019年の渋谷スクランブルスクエア開業も忘れ去られてしまったかのようだが、渋谷は今、2027年まで予定されている大開発のまっただ中で、めまぐるしく変わり続けている。とくにコロナ禍であることもあり、大人は敬遠しがちだが、ときには出かけてみると、思わぬ発見を得られるのではないだろうか。