「高齢者ドライバー問題」が解決しない根本理由

警視庁によると、交通事故発生件数に締める65歳以上の高齢運転者の事故割合は2020年で16.6%だった(写真:Fast&Slow/PIXTA)

2019年4月に東京・池袋で2人死亡9人が負傷した、いわゆる池袋暴走事故が、高齢ドライバー問題としてメディアで大きく取り上げられる機会が多い。

直近では、2021年6月21日に行われた公判で、事故の被害者遺族が被告に対して直接質問し、そのやり取りが各局のテレビ番組の中で速報された。番組中でのコメンテーターらのコメントを聞いていると、高齢ドライバー問題の論点は大きく2つあることを改めて認識した。

ひとつは「高齢ドライバーの運転技量にともなうこと」、もうひとつは「高齢者を含む社会全体の交通のあり方」である。

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筆者はこれまで、国や地方自治体、自動車メーカー、あるいは教育機関や研究機関で行われてきた高齢ドライバー問題に関するさまざまな議論の場に参加してきたが、そうした中で、常々2つの論点の“バランスの悪さ”を感じてきた。そして、この”バランスの悪さ”が、高齢ドライバー問題解決の障害になっていると思う。

法整備と最新技術は議論しやすい一方で…

まず、「高齢ドライバーの運転技量にともなうこと」については、運転免許制度と自動車技術が議論の中核となる。

運転免許制度では、事故事例の科学的な検証や医学的な見地からの分析、高齢者向けアンケート調査などをもとに、免許の自主返納と、海外事例を参考とした運転時刻・行先・範囲などの運転の条件を限定する免許のあり方が、議論されてきた。

こうした議論は実際に社会に変化をもたらしており、2017年と2020年の道路交通法改正にともない、運転免許更新における認知機能検査の拡充などが進んでいる。

交通整理に関わる高齢者ドライバー向けに県が地元警察と連携して行った、高度運転支援システムの体験試乗会の様子(福井県福井市内で筆者撮影)

また、高齢者が安心して運転を続けるための支援として、国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターが「運転寿命延伸プロジェクト・コンソーシアム」を立ち上げ、研究者らの知見を国内外に向けて紹介する取り組みも始まった。

自動車技術については、事故が発生するリスクを軽減する高度な予防安全技術の実用化が進む。今では「Toyota Safety Sense(トヨタセーフティセンス)」、日産の「プロパイロット」、「Honda SENSING(ホンダセンシング)」など、将来的に自動運転につながるような高度運転支援システムが、高級車だけでなく軽自動車にも標準装備されるようになった。

ただし、高度運転支援システムについて、自動車メーカー各社は高齢ドライバーを対象者として強調するような商品企画・実験・広報活動を行っておらず、あくまでも“すべてのドライバー”の安心安全を実現するための技術だという姿勢をとっている。

こうした法制度や技術案件に関する議論では、議論すべき内容の目標、また実験や量産化にともなう実績を定量化しやすいのが特長だ。

一方で、こうした議論の中では、参加者から「私の両親が住んでいる地方都市では……」というように、実生活内での“高齢ドライバー問題の社会におけるすり合わせ”の難しさが指摘されることが多い。

実際に「各地域の実情にあった解決策は市町村を中心に進めるべきであり、すでにさまざまな試みがなされている」という形で、法制度や自動車技術案件の議論が締めくくられるケースを筆者はこれまで数多く見てきた。