それら店舗の中に、パリでバンダイナムコグループが展開するガンプラ専門店「バンダイ・ホビー・ストア」がある。
同店および商品のヨーロッパ展開を担当するバンダイフランスの西山真さんは、コロナ禍で翻弄された昨年度の結果を、「2020年は波が激しい年だったが、結果的に前年度より売り上げが伸びました」と総括する。
フランスで外出制限が出された2020年春は、フランスにとって初めての経験ということもあり社会は動揺、売り上げにも大きな影響を与えたそうだ。しかし、その後はアニメ関連グッズの売り上げが伸びた。ガンプラなどプラモデルは、グッズに比べれば大きな伸びはなかったが、Eコマース需要とあわせて外出制限中も売り上げは止まることなく手堅く推移した。
「何度かの外出制限を経験して、お客さまも家での過ごし方に慣れてきました。Netflixなどでアニメに触れる機会が多くなり、外出制限が解除され店舗営業が始まると、その関連商品を買い求めました。過去の2回のロックダウンでは、どちらも解除に合わせて売り上げは上がっています」と西山さんは答える。日本からの商品の入荷についても、コロナ禍で若干の遅れは出るが、商品が途絶えてしまうという状態にはなっていないそうだ。
コロナ禍で大きく影響を受けたのが、ファンと直接向き合えるイベントだ。とくに、フランスを代表する日本イベント「ジャパンエキスポ」は、昨年に続き今年も開催が見送られた。しかし西山さんによると「それほど悲観はしていない」という。
「ヨーロッパの中でもとくに日本のポップカルチャーへの理解度が高いフランスにおいて、今後の展開でより重要になってくるのが、いかに購買層の裾野を広げるかということ。その点でフランスにおいては、すでにファンとなった人が集まるジャパンエキスポのようなイベントより、全国展開するスーパーマーケットなどガンプラを知らない人が多く集まる一般的な場所で訴求し、新たなファン層を獲得することが重要になってきています」と西山さんは現状を説明する。
コロナ禍のあおりを大きく受けたのが、集客を活動の主とする文化施設である。エッフェル塔の近くにあり、ホールやイベントスペースを備えた「パリ日本文化会館」は、フランス政府による外出制限などもあって、昨年度は9月から10月の2カ月間しか施設を開けられる期間がなかった。
「日本から出演者やゲストを呼べないため、多くのイベントが延期または中止になりました。コロナ禍以前までは、パリ日本文化会館という箱をいかに活用するかということをつねに考えてきましたが、コロナ禍ではそれをできなくなった」と同館で事業部長を務める鈴木達也さんは語る。
しかし、施設としては従来の形での活動に多くの制限が課されたものの、フランスにおける日本のポップカルチャーの熱については、下がっているとは感じないそうだ。「仕事柄、フランスに住む漫画翻訳者とのつながりは多いですが、コロナ禍でもつねに忙しそうな印象を受けます」と鈴木さんは言う。
コロナ禍の制限がある中で、“箱”を基本としてきたパリ日本文会館が目を向けたのは、これまでの交流の中で積み重ねてきたつながりを使っての、映像による文化紹介だった。アヌシー国際アニメーション映画祭長編部門審査員賞を受賞した片渕須直監督や、アニメーターのりょーちも氏などのインタビュー映像を制作し、フランスの日本文化ファンに向けて公開した。
公的機関であるパリ日本文化会館には2つの意義があるという。1つはフランスにおける需要を汲んで、それらをサポートすること。しかし需要がある分野は、公的機関のサポートがなくても商業的に盛り上がることは多い。