もうひとりの望月一志さん(仮名)は、東京のトップ私大を出て輸送機メーカーに入社、アメリカでMBAを取得し、外資系コンサルティングファームに転職したという高スペック人材です。4年前に現在の電機メーカーに転じましたが、年俸は4年前に入社した時が最高額で、それ以降、毎年下がっています。
「この会社に入社して、新規事業開発のプロジェクトリーダーを任せられました。テストマーケティングをするところまでこぎ着けましたが、経営上層部の方針転換でプロジェクトが中止になりました。ところが、なぜだか私のミスでプロジェクトが頓挫したという周囲の雰囲気になり、その後もなんとなく雰囲気で評価が決まっている印象です。挽回のチャンスももらえないので、そろそろ転職しようかと考えています」
本人の弁なのでどこまで事実なのかはわかりませんが、2人の事例から出世していない高スペック人材が「会社側の評価に不満を持っている」ことは伺えます。人は誰でも評価が気になるものですが、とりわけ能力が高いと自負している高スペック人材にとって、公正な評価は関心が高いということでしょう。
ところで今回、経営者や人事部門の責任者・担当者に高スペック人材について訊ねたのに、会社側の問題点に関する意見・反省の弁が多数寄せられました。
一つは、「高スペック人材の育成」に関する問題です。企業は高スペック人材が将来幹部社員として活躍することを期待しています。経験を積んで幹部社員へと成長してもらいたいわけですが、計画的に幹部育成に取り組んでいる企業は少ないようです。
「高スペック人材には、経営企画・人事などエリート部門に配属させたり、重要プロジェクトのメンバーに選んだりと、若い頃からチャンスを与えます。ただ、高スペック人材が少しミスをしたりすると、『学歴の割に大したことないな』と厳しく評価し、もうチャンスを与えなくなります。当社では社員にチャレンジを推奨しているし、誰でも失敗があるのに、高スペック人材の失敗には不寛容です。また、一応サクセションプラン(後継者育成計画)を作っているんですが、あまり機能しておらず、せっかく採用した高スペック人材を潰してしまっています」(金融・経営者)
もう一つは、「高スペック人材の活用」に関する問題です。高スペック人材、とくに中途入社組には、平均的な社員にはない突き抜けた発想で事業・組織の改革を先導して欲しい、という企業の期待があります。しかし、高スペック人材をなかなかうまく活用できていないようです。
「20代の若手や中途入社の高スペック人材は、空気を読まずに会社に対し批判的な意見を述べたりします。そういう時に経営者や職場の管理職が『東大出がまた頭でっかちなことを言ってるな』『会社のことをちゃんと勉強してからものを言え』と拒否反応を示します。当社はダイバーシティー(多様性)の推進を掲げていますが、高スペック人材を異端として許容しない組織風土を見ると、道遠しという印象です」(素材メーカー・人事部門)
いま世界中で、高スペック人材を巡る人材獲得競争が激化しています。アメリカのIT企業や金融機関では、高スペック人材に学卒の新人でも年収2,000万円以上を提示することが珍しくありません。一方、多くの日本企業は、「大卒」という一括りで採用する平等主義で、人材獲得競争に大きく後れを取っています。また、せっかく採用した貴重な高スペック人材を育成も活用もせず、死蔵させています。
高スペック人材をどう採用し、育成し、活用するか。日本企業の命運を左右する大きな課題と言えるでしょう。