企業には、多数の平均的な社員と一握りの「高スペック人材」がいます。高スペック人材とは、一流大学を卒業した、難関の公的資格を取得している、一流企業で勤務した経歴がある、といった条件を満たす人材です。
期待通りに「さすが!」という大活躍をしている高スペック人材も、もちろんたくさんいます。しかし、意外と目立つのが、成果を出せず、上司や人事部門から評価されず、出世できずにくすぶっている高スペック人材です。
資質・能力では有利で、企業から期待されているはずの高スペック人材が出世できないのはなぜでしょうか。出世できない高スペック人材にどういう特徴・問題点があるのでしょうか。
今回、経営者や人事部門の責任者・担当者37名に「出世できない高スペック人材の特徴、問題点」を訊ねました。実に多彩な回答がありましたが、次の3タイプがあることがわかりました。
第1に、自分の考え・やり方にこだわり、組織の方針や周囲のやり方に合わせることができないというタイプです。
「東大・京大あたりの出身者はやはり頭が良く、物事の本質をしっかり考え、理にかなったことを言います。ただ、自分の考えに自信を持ちすぎ、周囲に合わせて柔軟に行動するということができません。また、会社では一見無駄な業務や下積み仕事があるわけですが、高スペック人材は自分が無駄だと判断したら止めてしまったり、手を抜いたりします。結果として、職場で浮いてしまい、あまり評価されません」(エネルギー・経営者)
第2に、他人に仕事を任せられない、仕事ができない部下をやり込めてしまう、というタイプです。
「高スペック人材は業務遂行能力が高いので、能力が劣る周囲のメンバーや部下に仕事を任せるよりも、さっさと自分で片付けてしまいます。管理職になったら部下を育成しなくてはいけないのに、仕事ができない部下を厳しく叱責し、やり込めてしまいます。30代前半くらいまで担当者として高く評価されて、同期で一番乗りで管理職に昇格したのに、その後伸び悩んでしまう、というケースがよくあります」(食品・人事部門)
この第1・第2のタイプでは、頭の良さや職務遂行能力の高さが社内で評価されるうえで裏目に出ているようです。一方、高スペックに実力が見合っていないという第3のタイプもいます。
「早慶などトップ私大の出身者には、帰国子女や付属校からの内部進学などで実は基本能力が低いという“似非高スペック人材”がいます。米国弁護士のような難易度が低い資格の保有者もそうですね。こういう人たちは、周囲からの期待が高い分、ちょっと仕事でつまずくと期待とのギャップに悩むようです。まあ高スペックというだけで採用してしまったわれわれ人事部門の責任も大きいわけですが」(エンジニアリング・人事部門)
今回、高スペック人材の側にも言い分があるだろうと考え、出世していない高スペック人材にもヒアリングしました。
澤田実さん(仮名)は、関西のトップ国立大を卒業して専門商社に入社し、26年経ちます。同期入社が次々と部長に昇進する中、澤田さんは2つ下の課長職にとどまっています。
「20代の頃、直属の上司と仕事のことで衝突し、極端に低い評価をされて、それから昇進が遅れました。一度低い評価になると、その後も『学歴だけ立派で使えないヤツ』という評価が付いて回りました。若い頃は悔しくてたまりませんでしたが、評価は水物だと考えるようになりました。いまは、自分が良いと考える仕事をして、お客様に喜んでもらえれば十分だと思っています。『どうして澤田さんは出世できないの?』という周囲の視線は、いまでも少しウザイですがね」