大坂なおみ氏も悩む「人前で話す恐怖症」の克服法

「コミュニケーションのコーチング」を生業とする私が、大坂選手のTwitterでの告白で気になったところがありました。

それが、次のくだりです。

「私をよく知る人は私が内向的(introvert)であることはわかっていると思うし、大会で私を見たことがある人なら誰でも、私が社会的不安をやわらげようと、よくヘッドホンをつけている姿に気がついていると思います。
(中略)私は生まれもってのパブリックスピーカーではないし、世界のメディアの前で話すたびに、大きな不安の波にさらされます。本当に緊張するし、ベストな回答をしようとすることにストレスを感じてしまうのです」

「パブリックスピーキング」大勢の人の前で話すことを意味しますが、これに恐怖心を覚える人は少なくありません

アメリカ人も恐怖を感じる「パブリックスピーキング」

社交的に見られるアメリカ人でも、プレゼンやスピーチなどに苦手意識を持っている人は多く、「あなたにとって、一番恐怖を感じるものは何か」というアンケート調査で、堂々の1位を獲得したのは、多くの人の前で話す「パブリックスピーキング」でした。

約25%のアメリカ人がそう答え、その他の選択肢である「高いところ」「虫やヘビ」「溺れること」「血や針」「閉所」「飛ぶこと」より怖いものとして考えられていたのです。

アメリカの有名なコメディアン、ジェリー・サインフェルドは「葬式で弔辞を読むより、棺桶に入っていたい」とジョークを言いましたが、それぐらい、人前で話すのは「恐ろしい体験」ということでしょう。

この症状は「Glossophobia(人前で話すこと恐怖症)」という固有名詞になるほど一般的というわけです。アメリカ人の75%が多少なりとも、この「人前で話すこと恐怖症」を持っているという調査結果もあるほど。

特に悩みを抱えやすいのは、共感力が高く、人の気持ちをおもんぱかりすぎて、緊張してしまうタイプの人たちです。聴衆の表情や気持ちを読みすぎたりして、萎縮してしまう。

大坂選手は、2018年のUSオープンで優勝した際に、会場のファンに、「皆さん、彼女(セリーナ・ウィリアムズ)を応援していたと思うのですが、こんな風に終わらせる結果になってごめんなさい。試合を見てくれてありがとう」と謝罪をしました。こうした優しさが、愛されてきたわけですが、その繊細さと感受性が彼女を苦しめてきたのかもしれません。

「内向的」「人見知り」が不利に働きやすいアメリカでは、この分野についても「多角的」「科学的」に研究が行われ、数々の「治療法」が存在します。

人前で話すことが苦痛だった私も、7年前、ニューヨークでコミュニケーション修業をした際、れっきとした大学の機関として、「Shyness research institute(人見知り研究所)」なるものがあることを知り、その門戸を叩いてみました。

ほかにも、「アクティングスクール」「ボイストレーニング」「パブリックスピーキング」のクラスなど、毎日、千本ノックのようにトレーニングを受け続けて、幸いに、苦手意識を克服することができたのです。

そもそもこの現象は、「知らない敵に囲まれたときに、人は恐怖を覚える」という「本能的防御反応」でもあるわけですが、「①人の本能・生物的反応」「②個人の考え方・とらえ方」「③シチュエーション」「④スキル」といった4つの要素に影響を受けるものだそうです。

ですから、「シチュエーションを変える」「スキルを獲得する」といったことで克服できるものもある。彼女は「自分は生まれつきのパブリックスピーカーではないから」と表現しましたが、この特質は生来のものというよりは環境や教育に大きく影響されると考えられています。