私は精神科医や産業医の立場で、多くの人の悩みを聞いてきました。その中でも、次のような相談をよくいただきます。
「どこの部署に異動しても、会話が続かないから、うまくなじめず職場に居場所がありません」
「営業の仕事で、盛り上げようと雑談をすると、いつもとんでもない空気になって、仕事がストレスです」
これらの人に共通しているのは、「雑談が苦手」と思っていることです。
あなたも、初対面の人と会話を始めたものの、二言くらいで終了してしまって、そのあとに沈黙が続いたことがあるのではないでしょうか。通勤中に接点が少ない先輩社員と駅で出会ってしまい、会社に到着するまで、気まずい雰囲気だった経験もあるのではないでしょうか。
このような、知り合いと2人きりになる場面に遭遇したとき、あなたは無意識に「雑談をしなければ」と考えていたのだと思います。
実際、よく会社員の方から「エレベーターで、普段あまり接点のない会社の人と会ったとき、どのような話をすればいいですか?」という質問をされます。
私の回答は、「雑談は無理にしなくていい」ということです。
あなたの内側に「なんか口では表現しにくいけど、話しにくいなぁ」という気持ちがあるときは、無理しないほうがいいのです。その理由は、心理学の観点から考えると明らかです。
実は、プレッシャーを感じた中で繰り広げられた雑談は、相手にネガティブな印象を与えてしまうメカニズムがあります。
あなたは、何か不安を感じたとき「やばい、不安がバレてるかも」と思い、余計に不安を増幅させてしまった経験はありませんか。これは、事実かどうかは別として、自分の心の中を読まれていると思い込む、「透明性錯覚」という現象です。
すると、次に起こるのは「情動伝染」という現象です。
赤ちゃんが笑っている姿を見ると、つい頬が緩んでしまいますよね。また、悲しそうな人を見ると、自分まで悲しい気持ちになってしまうことがあります。このように、人の感情は音叉のように共鳴を起こしていきます。
つまり、もともとあなたの不安や緊張が伝わっていなかったとしても、「不安が伝わっているかも」という思い込みで余計に不安が増してしまい、そのせいで本当に相手へ伝わってしまうのです。
このメカニズムから考えると、「話しにくいなぁ」とネガティブな感情を抱いているときに、無理して雑談をすると、そのネガティブな感情を相手に伝えることになります。
よかれと思ったコミュニケーションが、関係を悪化させる可能性があるということです。
そもそも、みなさんを悩ませている雑談って何なのでしょうか。雑談といえば、
このようなイメージを持っている人が多いと思います。
結論からお話しすると、その思い込みはすべてストレスの原因です。今まであなたが、雑談に対してこれらのようなイメージを持っていたなら、あらゆる場面でとても苦しんできたことでしょう。