「無駄」や「非効率」がビジネスに不可欠な訳

私たちはロジカルであろうとしすぎるあまり、ビジネスチャンスを失っていないだろうか?(写真:tadamichi/PIXTA)
私たちは問題解決はロジックによって導かれると考えている。そのために、データやアルゴリズムを利用して、市場調査をしたり、コストカットをしたり、ビジネスモデルを組み立てたりすることが大流行である。
しかし、現実世界では、どうみても不合理な解決策によって成功した事例に事欠かない。私たちはロジックを重視するあまりに、ビジネスや政策立案において、より効果的な解決策を見失っていないだろうか? 
今回、世界的な広告会社オグルヴィUKの副会長が、人々の心理に働きかけ、行動を変えるさまざまな「魔法」について書いた『欲望の錬金術』から、一部を抜粋・編集してお届けする。

ロジックを捨てれば解決策が見つかる

私の主張におけるシンプルな前提を述べよう。現代の世の中は不合理なものに尻込みする傾向があるが、合理的でないものがこのうえなく強力な場合もあるということだ。

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科学やロジックが生んだ議論の余地なく貴重なものと並んで、発見されるのを待っている、人間のさまざまな問題に対する、一見したところ不合理な解決策も何百と存在する。答えを探す中で、平凡でいかにも無邪気なロジックを捨てさえすれば、そんな解決策は見つかる。

残念ながら、物理科学では還元主義的なロジックが非常に信用できると証明されているため、今やそれがあらゆるところに適用できるはずだと思い込まれている。

人間に関する、もっとめちゃくちゃなものに取り組む場合でも。今日の人々の意思決定に最も幅を利かせているモデルは短絡的なロジックを重視し、魔法なんか軽視している――スプレッドシートには奇跡など入り込む余地はない。

だが、もしもこんな方法が間違っているとしたらどうだろう? 物理学の法則の正しさを再現しようとするあまり、ロジックの出る幕がない分野に、同じ一貫性や確実性を押しつけることに熱心になりすぎているとしたら?

例えば、仕事と休暇について考えてみよう。現在のアメリカ人の68%は、大半の人が楽しむわずか2週間ほどの休暇よりももう2週間多く休みが取れるなら、金を払ってもいいと思っているだろう――休暇の日数が2倍になるなら、報酬が4%カットされることを受け入れるはずだ。

しかし、休暇を増やしても、誰もが少しも損をしないとしたらどうだろう? 余暇の時間が増えることにより、レジャー用品に使われる金の点でも、生産性が向上する点でも、アメリカ経済に効果があるとしたら? 前よりも休暇が増えた人々は可能になったとたんに引退してフロリダのゴルフコースへ行くよりも、現役で働く期間をもっと延ばそうとするのではないか?

あるいは、まずまず満足できるほど休みが取れて、旅やレジャーで刺激を受けられれば、それまで以上の仕事をするのでは? さらに最近のテクノロジーの進歩により、多くの職種において、職場への貢献度は働き手がどこにいてもあまり変わらなくなってきただろう。アイダホ州のボイシにある狭いオフィスにいようと、カリブ海のバルバドス島のビーチにいようと、違いはそれほどないのだ。

こういった魔法のような結果を裏づける証拠はふんだんにある。フランス人はまれに休暇中でない場合、驚くほど生産性が高い。毎年6週間の休暇が当たり前なのにもかかわらず、ドイツの経済は成功している。

とにかく、試すどころか、この魔法の解決策かもしれない方法をアメリカ人に考えさせるモデルすらまったく存在しない。世界をロジカルなモデルで考える左脳で思考しているから、生産性は労働時間に比例するものだし、休暇を2倍にするなら給与を4%減らすべきだとされているのだ。