トヨタの会議が「30分で終わる」超合理的な理由

「一人勝ち」のトヨタ 強さを生む暗黙知とは?(写真:Stefan Wermuth/Bloomberg)
2021年2月の登録車販売台数順位(乗用車ブランド通称名別順位/日本自動車販売協会連合会)では、トップ10のうち8車種をトヨタ車が占めました。最近はこの傾向が完全に定着しており、まさに「トヨタの一人勝ち」と言える状況です。
なぜトヨタはここまで強いのか。もちろん、そこにはさまざまな背景や外的要因があるはずですが、それらとは別に、トヨタの本質的な強さを生み出す社内の暗黙知的なビジネススキルやコミュニケーション術があると、元トヨタマンで現在は戦略コンサルタント/事業プロデューサーに転身した山本氏は言います。同氏の新著『トヨタの会議は30分』から一部を抜粋・再構成して、そうしたスキルやコミュニケーション術のいくつかを全3回で紹介します。

トヨタのコミュニケーションは常に直球で骨太

トヨタを最強の日本企業のひとつたらしめている強みは多数あります。たとえば「かんばん方式」に代表されるトヨタ生産方式や、業務効率改善のためのトヨタ式カイゼン手法、あるいはその強力な販売網についてなどは、みなさんも一度は聞いたことがあるでしょう。

もちろんこれらの要素も、トヨタの強さを形づくるうえでは欠かせないものです。しかし、トヨタ本社のエンジニアとして、長らく生産現場にいた「元・中の人」としては、実はトヨタ社内で暗黙知的に共有されているコミュニケーション術やビジネススキルこそが、トヨタという会社の本質的な強みを生み出しているように思えてなりません。

総じて、トヨタでのコミュニケーションは常に直球でした。お互いの余計な忖度を排して、ストレートに意見をぶつけ合い、サッサッと意思決定を進めていくことがよしとされます。

社内では超ローカルな三河弁や名古屋弁が飛び交っていますが、トヨタを退職したあとに経験したGAFAMやBATH(に含まれる企業)の会議や打ち合わせにも負けない、「ギガ速」のコミュニケーションが存在していました。

大企業なのに大企業らしくない泥臭い会社。ベンチャー企業のような時間感覚を持っている会社。それこそが、私が現場で感じたトヨタの姿です。

そして、そんなトヨタのコミュニケーションへのスタンスが、特に顕著に表れていたのが「会議」のやり方です。

たとえば、トヨタの私がいた部署では、「会議は30分!」と口を酸っぱくして言われていました。

日本の会社では、会議や打ち合わせの所要時間として「1時間」を設定する場合が多いと思います。しかし実際には、ほとんどの会議は30分で終わらせることが可能です。

最初から会議の所要時間を1時間と設定してしまうと、参加者は当然、その会議は1時間かかるものと思ってやってきます。本来なら30分で終わらせられる内容であっても、わざわざ1時間かけて会議をすることになるのです。これでは、後半の30分が無駄。

30分あれば、新幹線なら名古屋から京都まで行けてしまいます。企画書なら2、3枚は書けるでしょうし、対外的なちょっとフォーマルなメールを1通書くこともできます。それだけの時間を会議のたびに無駄にしていたら、年間ではすさまじい量の時間の浪費につながるでしょう。

たとえば管理職クラスのビジネスパーソンならば、1日に会議や打ち合わせが2~3回あることは珍しくないはず。年間の平日はおよそ240日なので、うち120日は1日2回、もう120日は1日3回の会議や打ち合わせがあると仮定すると、年間600回となります。

30分×600回=300時間なので、毎回の会議で30分を無駄にするかしないかで、1年あたりおおよそ300時間もの差が出てくることになります。1日8時間労働と仮定すれば37.5日分、つまりおよそ2ヶ月間の平日に相当する分、労働時間を圧縮することにもつながるのです。