会議や打ち合わせの基本設定を1時間から30分に変えるだけで、年間の6分の1の労働時間を別の仕事に充てられるようになります。ここに意識を向けないのは本当にもったいないですし、知ったうえで放置していたとしたら、まさに「生産性の低い給与泥棒」になってしまうでしょう。
こうした事態を避けるためか、トヨタでは特別な場合を除いて、会議や打ち合わせは原則として30分で設定するよう口うるさく指導されていました。
このように設定すると、時間が限られているという意識が参加者全員に共有されるため、余計な世間話などしていられません。会議が始まるやいなや、すぐに議題の確認と本質的な議論へと移ります。
とはいえ、議論が白熱すれば30分では時間が足りなくなることもあります。その場合には、必要な分数だけ延長することもよくありました。ただしそれも30分までで、それ以上に時間がかかりそうなときには、別の会議を設定する、という形で運用されていました。
この延長時間を確保するため、会議の予定は立て続けには入れず、最低30分はあいだを空けて入れるようにも指示されていました。
ただしこれは、とにかく会議の時間を短く設定すればよい、という単純な話ではありません。これまで60分会議を標準にしていた会社が、いきなり30分の設定にしただけだと、恐らくはその時間内で議論が終わらず、消化不良感が残る会議になるでしょう。
会議をきっちりと30分で終えるためには、事前の準備が必要です。たとえば、関係者には前もって、その会議で何を話し合うのか「議題(アジェンダ)」を周知しないといけません。それも漠然とした大きすぎる議題ではなく、ある程度は具体的な「解像度の高い議題」を事前共有することが、トヨタでは求められていました。
トヨタでは、この議題の事前共有ができていないと、担当者のところに会議の参加者から「今日の会議、議題はどうなっているんだ?」と会議前に矢の催促がくることになります。上役にも問い詰められますから、会議開催の必須要件となっていました。
逆に、会議の主催者側は、議題の事前共有さえきちんとしておけば、それ以上の準備は求められませんでした。あれもこれもと関係する資料を想定して、あらかじめ用意しておく必要はありません。
どういうことかというと、各参加者が事前に共有された議題に沿って、必要な情報や資料をそれまでの仕事の文脈から「勝手に推測して」用意してくれるのです。
「何のためにこの議題が設定され、今日はこの場でどこまで議論すべきか」「そのために自分はどんなアウトプットを出すべきか」、全員がこうしたマインドセットを持って会議に参加していますから、必要な資料も各自が持ち寄るのが基本でした。
もちろん主催者側もそれなりの準備を怠ってはいけないのですが、そもそもほとんどの会議や打ち合わせにはそれ以前の仕事からの文脈があり、その会議以前の会議や打ち合わせで「次は何を話し合うか」も決めています。そのため、いわば「ネクスト会議」では、前回の会議や打ち合わせ以後に各参加者が動いた結果の情報交換から始まり、その後にいきなりブレストや意見交換になるわけです。
このサイクルを回すために、会議や打ち合わせの最後には「次は何を打ち合わせるか」を決めて終わらなければならないという不文律もありました。
トヨタでは、会議や打ち合わせにおいても、こうしたPDCAサイクルを習慣化・仕組み化することで、無駄なく、最速で意見交換やブレストができる会議や打ち合わせを実現していたのです。
ちょっとしたことなのですが、こうした「少しの差」を愚直に積み重ねることで、最終的には巨大な差をつくり出すところはまさにトヨタ式「カイゼン」の体現です。