科学的に見て「送りバント」は有効な戦術なのか

たとえば、サッカーやラグビーのように、ボールをゴールや陣地に運ぶことによって得点する「ゴール型」や、バレーボールやテニスのように相手とネットを挟んで対面し、相手コートにボールを打ち込むことによって得点となる「ネット型」があります。実は球技における得点の仕方は、大体この2つに分類されてしまいます。

ところが、野球は人が得点となる「ベースボール型」です。これは珍しい部類に入り、その特性をつかんで競技をする必要があります。野球の得点の仕方がベースボール型であることを、私はよく「すごろく」にたとえます。

すごろくは「ゴールにより近いところにいたほうが有利」です。1塁より2塁、2塁より3塁にいたほうが、次のサイコロの一投でゴールである本塁にたどり着く確率が高くなります。そのため、野球の監督は、「送りバントを用いて走者を進めておいたほうがよい」と考えるのです。

では、送りバントの成功率はどのくらいでしょうか? 送りバントの得意・不得意もあり、「何をもって成功とするのか」も難しいのですが、基本的には狙いどおり「送りバントをして、1塁ランナーが2塁に進んだケース」を成功と考えます。

また、「送りバントをしたところ、守備がエラーをして1・2塁になったケース」といったものも含みます。とにかく、「送りバントをすることで、その目的を果たした。もしくは目的以上に達した」という結果を成功と考えると、その確率はだいたい80%くらいになります。

私も、毎年の自チームの送りバントの成功率を出していたことがあります。成功率が70%を切ってしまう打者もいましたが、おおむね80%程度の成功率でした。

安打を狙った強攻策の場合、打率はよくて「3割」の30%、四死球を入れた場合の出塁率としても40%くらいですので、送りバントという戦法の成功率は非常に高いと言えます。もう1つの戦法として盗塁がありますが、この成功率も人それぞれで、成功率80%以上の人もいますが、50%以下の人もいます。また、盗塁の場合は、失敗すると「1死走者なし」となってしまい、得点期待値が0.90から0.29へと大きく下がってしまいますので、ハイリスクの戦法と言えます(高校野球の場合)。

つまり、送りバントは走者を2塁へ進めるさまざまな戦法の中で、最も確率が高い安全な戦法と言えるのです。

「どうしても1点がほしい」接戦時の戦術

送りバントをもう少し深掘りしていきましょう。送りバントは「1点を取るために有効な手段である」ということは、野球の指導現場ではよく言われます。「強攻策は大量点につながることもあるが、失敗も多い。反面、送りバントは1点を取りに行く手堅い戦法である」という意味です。

そこでここでは、それぞれの状況から、「1点でも取れたかどうか」の指標である、得点確率を見てみたいと思います。

高校野球の場合、無死1塁では得点確率が45.9%だったのに対して、1死2塁では47.5%となっています。若干ではありますが、得点確率が向上しています。

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これがプロ野球ですと、無死1塁の得点確率が40.2%であるのに対して、1死2塁の得点確率は39.2%と、少しですが減少してしまいます(『セイバーメトリクス入門』より)。

高校野球の監督が考える「送りバントの有用性」はここにあります。「どうしても1点が欲しい」――接戦での1点の重みを考えて送りバントをすることが、高校野球の監督の感覚としてはあるようです。

また、監督が考えることとして、強攻策を取ったもののダブル・プレイで一気に走者を失ってしまう可能性があることも、「送りバントで攻めていこう」とする要因になります。