「送りバントは有効な戦術なのか?」とは、よく聞かれる質問です。まず、「送りバントは無死1塁でどのくらい戦法として使われているのか?」ということから調べてみました。2016~2017年の甲子園大会129試合のデータを調べると、無死1塁で送りバントという戦法を選んだのは50.2%でした。
私の印象では「まだ結構使っているな」という感じです。
しかし、ほぼ10年前の2005~2007年の甲子園大会160試合のデータを調べると、無死1塁で送りバントという戦法を選んだのは68.9%にも及びます(拙著『甲子園戦法セオリーのウソとホント』朝日新聞社より)。
10年前までは「無死で走者が1塁に出れば送りバント」と考えてよかったのですね。それが10年間で約20%も減少したことになります。
この10年間、高校野球では「打高投低」が進んでいます。その証拠に、2007年夏の甲子園大会の本塁打数は24本、2008年は48本、2009年は35本だったのに対し、10年後の2017年には68本、2018年は51本、2019年は48本となっています。大会によって差はありますが、増加傾向に転じているのです。
打高投低が進んでいる現代の野球において、送りバントは1死を与えるもったいない戦法と言えます。
野球の世界には、データを統計学的見地から評価し戦略を考える分析手法としてセイバー・メトリクスというものがあります。
その研究によると、送りバントで1死を与えることで、得点期待値が0.90から0.77へ減少することがわかっています(高校野球の場合)。このデータから考えても、送りバントは有効な手段ではないと言えます。
この結論は高校野球だけでなく、プロ野球でも同様です。
2014~2018年のデータでは、無死1塁から1死2塁になることで、得点期待値は0.80から0.64に減少します。このことを考えても、送りバントは有効ではないと考えられます(蛭川晧平/著、岡田友輔/監修『セイバーメトリクス入門』より)。
しかし日本の野球では、依然として送りバントを使う傾向にあります。なぜでしょうか?次項では「送りバントの謎」をもう少し深掘りしてみたいと思います。
ここまでで、無死1塁での送りバントは有効ではないことを、得点期待値から明らかにしました。それでも、日本の野球ではいまだ送りバントが使われる傾向にあります。私も現役の筑波大学硬式野球部の監督ですが、送りバントはよく使います。
ここでは送りバントについてもう少し深掘りして、有用性について述べていきたいと思います。
まず、そもそも「野球の得点」について考えてみましょう。野球では、1イニングのうちに3死取られる前に、走者が1塁→2塁→3塁→本塁と踏むことによって「1点」が得られます。「そんなことわかっているよ」と言われそうですが、球技によってこの「得点の仕方」には特徴があります。