科学的に見て「送りバント」は有効な戦術なのか

科学的に見た「送りバントの有効性」に迫ります(写真:dramaticphotographer/PIXTA)
3月26日から始まったプロ野球を待ちに待っていたビジネスマンは多いでしょう。ところで、メジャー・リーグや日本のプロ野球、高校野球の試合で、「あのピッチャーはどうしてあんなに速い球を投げられるのだろう?」「遅い球なのになぜ打てないのだろう?」「送りバントって、本当に有効な戦術なの?」「先攻と後攻はどちらが有利?」といった疑問をもったことはありませんか?
こんな疑問に「科学的な見地」で答えた『野球の科学 解剖学、力学、統計学でプレーを分析!』より、今回は「送りバントの有効性」に迫ります。

「送りバントは有効な戦術なのか?」とは、よく聞かれる質問です。まず、「送りバントは無死1塁でどのくらい戦法として使われているのか?」ということから調べてみました。2016~2017年の甲子園大会129試合のデータを調べると、無死1塁で送りバントという戦法を選んだのは50.2%でした。

私の印象では「まだ結構使っているな」という感じです。

しかし、ほぼ10年前の2005~2007年の甲子園大会160試合のデータを調べると、無死1塁で送りバントという戦法を選んだのは68.9%にも及びます(拙著『甲子園戦法セオリーのウソとホント』朝日新聞社より)。

10年前までは「無死で走者が1塁に出れば送りバント」と考えてよかったのですね。それが10年間で約20%も減少したことになります。

「送りバント」はデータから見ても有効な手段ではない

この10年間、高校野球では「打高投低」が進んでいます。その証拠に、2007年夏の甲子園大会の本塁打数は24本、2008年は48本、2009年は35本だったのに対し、10年後の2017年には68本、2018年は51本、2019年は48本となっています。大会によって差はありますが、増加傾向に転じているのです。

打高投低が進んでいる現代の野球において、送りバントは1死を与えるもったいない戦法と言えます。

野球の世界には、データを統計学的見地から評価し戦略を考える分析手法としてセイバー・メトリクスというものがあります。

その研究によると、送りバントで1死を与えることで、得点期待値が0.90から0.77へ減少することがわかっています(高校野球の場合)。このデータから考えても、送りバントは有効な手段ではないと言えます。

この結論は高校野球だけでなく、プロ野球でも同様です。

2014~2018年のデータでは、無死1塁から1死2塁になることで、得点期待値は0.80から0.64に減少します。このことを考えても、送りバントは有効ではないと考えられます(蛭川晧平/著、岡田友輔/監修『セイバーメトリクス入門』より)。

しかし日本の野球では、依然として送りバントを使う傾向にあります。なぜでしょうか?次項では「送りバントの謎」をもう少し深掘りしてみたいと思います。

それでも使われるのは野球の「得点の仕方」にある

ここまでで、無死1塁での送りバントは有効ではないことを、得点期待値から明らかにしました。それでも、日本の野球ではいまだ送りバントが使われる傾向にあります。私も現役の筑波大学硬式野球部の監督ですが、送りバントはよく使います。

ここでは送りバントについてもう少し深掘りして、有用性について述べていきたいと思います。

まず、そもそも「野球の得点」について考えてみましょう。野球では、1イニングのうちに3死取られる前に、走者が1塁→2塁→3塁→本塁と踏むことによって「1点」が得られます。「そんなことわかっているよ」と言われそうですが、球技によってこの「得点の仕方」には特徴があります。