そのことを考えれば、少なくとも四捨五入して小数点以下をなくすほうがよほど正確で、かつ誠実ではないだろうか(マスコミが騒ぐだけの価値は減ってしまうだろうが)。というより、思いきって国別ランキングの公表をやめて、トップ10か20に入る国名を発表するほうがはるかにいい。
さらに付け加えると、幸福度の高さと自殺率の低さに相関関係は見られない。ヨーロッパのすべての国々で、幸福度と自殺率を比較してみたところ、相関関係がまったくないことが判明したのだ。実際、幸福度の高い国のなかにも自殺率がわりあい高いところはあるし、幸福度が低いとされる国のなかにも自殺率がきわめて低いところがある。
そうなると「北欧に暮らしているお金持ち」という要素のほかに、何が人を幸せにするのだろうか。
その答えのヒントは、幸福度ランキングが意外なほど高く思える国にあり、よく見るとじつにおもしろい事実が浮かびあがってくる。アフガニスタン、中央アフリカ共和国、南スーダンが、156か国のなかで最も幸福度が低いという結果は、残念なことではあるが十分に予想がつく(内戦により、あまりにも長いあいだ国土が荒廃しているため)。
その一方で、意外なランキングもある。メキシコ(麻薬が蔓延し、暴力事件や殺人事件の発生率がきわめて高い)が23位に入っていて、フランスより上位とは。さらには、グアテマラがサウジアラビアより上? パナマがイタリアより上? コロンビアがクウェートより上? アルゼンチンが日本より上? それに、エクアドルが韓国より上とは。
例に挙げた組み合わせの2国を比べてみると、1つのパターンが見えてくる。幸福度では下位の国のほうが経済的に豊かで(はるかに豊かな場合もある)、政情が安定していて、暴力事件が少なく、ずっと暮らしやすい。
一方、幸福度で上位のほうの国の共通点は一目瞭然。下位の国より貧しく、問題が多く、暴力事件も多発してはいるが、いずれの国もかつてはスペイン領だったため、圧倒的にカトリック教徒が多いのだ。
おまけに、どの国もトップ50にランクインしていて(エクアドルがちょうど50位)、日本(58位)よりだいぶ上だし、中国(93位)よりはるかに上だ。短絡的な欧米人から見れば、中国は幸せいっぱいの買い物客であふれる好景気に沸く国だというのに。
確かにルイ・ヴィトンは中国でたんまり儲けているのかもしれないが、巨大ショッピングモールも、ありとあらゆる情報を収集している共産党指導部も、中国の人々を幸せにできてはいないのだ。内政不安が続き、経済的にははるかに貧しいナイジェリア(85位)の人たちでさえ、中国の人よりも幸せを感じている。
よって、この世界幸福度ランキングから明確に得られた教訓をお伝えしよう。北欧、オランダ、スイス、ニュージーランド、カナダ以外の、どうしてもトップ10に食い込めない国のみなさんは、カトリックに改宗し、スペイン語の勉強を始めればいい。
次に幸福と失業率の関係について見ていこう。
そもそも失業率をはじめとした経済指標はあまり当てにならないと評判が悪い。というのも、その指標が何を計算に入れていて、何を計算に入れていないのかが、たいてい問題になるからだ。
例えばGDPは、大気汚染、水質汚染、土壌侵食、生物多様性の減少、気候変動といった要素がまったく考慮されていない。どの要素も、環境にさまざまなコストを生じさせているにもかかわらず、だ。
失業の指標もまた大切な要素を考慮していない。アメリカが公表する詳細なデータがその代表格だ。アメリカの経済関連のニュースでよく目にするのは、そうした公式発表の数字だろう。例えば、2019年12月のアメリカの完全失業率は3.5%だった。