つまり、個の力で食べていくことができる類のビジネスは、強いプレイヤーが1人で個人商店として営業するのが一番効率がいいのである。これがスモールメリットだ。
ベンチャーを興すとき、商売を始めるとき、あなたが大富豪の息子でもない限り、基本的には資本がほぼゼロという状態からスタートする。
その場合、スケールメリットではなく、スモールメリットが働くビジネスを行うのが原則なのである。
「すし」もまた、「まとめると高くなる」商品の代表例である。
すしは、冷静に考えると「魚の切り身一切れ+少量のご飯」の塊でしかないのだが、高級店になると一貫1000円というところも珍しくない。
また、回転ずしが「一皿100円~」と書いてあると安く感じるが、そもそも「魚の切り身一切れ+少量のご飯」の塊の値段としては、妥当ないし少し高いといったところである。
さて、「すしはなぜ高いのか」について、「仕込みに手間がかかっている」であるとか、「技術が必要」などの解釈をするのは可能だが、実はこれは幻想であるように思われる。
「魚の切り身+少量のご飯をすしと定義する」「すしは高い、というイメージが成立している」という前提条件のもと、すし屋は高い値段を取ることに成功しているのである。
冷静に考えると、例えばラーメン屋であっても仕込みに10時間かける店はたくさんあるだろうし、ゆで具合のコントロールや湯切りなど細かい技術によってそれなりに味は左右されるだろう。
実際のところ、「すし屋といえば1万円くらいはかかるだろう」「ラーメンであれば1000円程度で食べたい」というその商品カテゴリ固有のイメージができており、それに合わせて価格帯が決まっているのが、実際のところであるように思われる。
つまり、支払う金額というのは、前提となる商品カテゴリのイメージにかなり左右されていて、実際の中身について価値を詳細に検討して購入する人はほとんどいない、ということなのである。
逆に言うと、ビジネスを立ち上げるうえで、「高級とされるカテゴリに勝手に入り込む」という手法は極めて有効である。
具体例を挙げると、明らかに築地なのに「銀座東」と名乗っているマンションや、客観的に見ると立ち飲みバルでしかないのに「カジュアルフレンチ」などと名乗っている店舗がその典型である。
もちろん、多少のツッコミが入る可能性はあるが、それでも「築地」「立ち飲みバル」と名乗ったときと比べて、2~3割はプレミアムが乗せられている、というのもまた実態であろう。