親分肌、熱血漢、そして本質をズバリと口にする。「バッターってな、要は打ちゃいいんだ。ピッチャーは打たせなきゃいいし、ビジネスマンは会社に儲けさせりゃいい。ついでに監督はチームを勝たせればいいんだ」。取材で会ったとき、眉間に縦ジワを刻んで私に言った。ニコリともしない。冗談なのか本気なのか。「親分」と呼ばれて信望を集めた。
大沢はそんな人だ。悩みは万人に平等で、尽きず、逃れず。逃れられないものを逃れようとするのは愚かなことだとして、こんな言い方をする。「人間、生きてりゃ、悩みはつきない。社長は社長の、ペーペーはペーペーの悩みがあるわな。部長も悩めば、課長も悩むんだ。生きていくというのは、なかなかやっかいなもんさ。だから、悩みから逃れようなんて、虫のいいことは考えないことだ」
そして掲載の言葉を口にするのだが、大沢が信望を集めるのは、本質をついたあとで救いの一言をつけ加えることにある。悩みをサーフィンにたとえてこう続ける。「波に乗った数だけ上達するよな。それと同じで、悩みという波を努力というボードに乗って越えるたびに、生き方はうまくなっていくんだ。願ってもないチャンスじゃねぇか」。言われれば、なるほどと納得する。大沢親分は言葉のマジシャンでもあるのだ。
歩き出せば転倒のリスクがある。立ち尽くしていたのでは、つまずくこともないかわりに前には一歩も進めない。つまずいていい、失敗していい──ローゼンバーグはそう言い切る。34歳で母国アメリカでドーナツ店を開業。フランチャイズ制の導入で、現在、世界36カ国に1万1000店舗以上を展開。世界最大のドーナツチェーン「ダンキンドーナツ」(現ダンキン)をつくりあげた。
創業から70年。ドーナツを主力商品としつつ消費者のニーズに合わせ、変化に対応してきた。時代に即応してデジタル化への対応、ロイヤルティ・プログラムの充実を推進し、試行錯誤を繰り返してきた。歩き続ければつまずきもする。だが、挑戦なくして失敗なく、失敗なくして成長はない。ノウハウとは失敗の集積が導き出すものなのだ。
ローゼンバーグと同じことを、物理学者・アインシュタインが言っている。「失敗や挫折をしたことがない人とは、何も新しいことに挑戦したことがないということだ」
口で言うのは簡単だ。成功者だから言える──そう思ったりもする。だが、成功者とは挑戦と失敗の体現者なのだ。だから彼らの短い言葉には人生の要諦が詰まっている。挑戦と失敗は対極にあるのではなく、二人三脚であると知れば心置きなく挑戦することができる。成功は挑戦の先にあるのだ。
成功は誰でもするとは限らないが、失敗なら誰もがする。だから成功者の全員が失敗体験を持つ。問題は失敗したときにどうするか。宗一郎は起き上がった。倒れるたびに起き上がった。そして、そんな自分を振り返って光栄として誇った。「世界のホンダ」は、町工場から身を起こした宗一郎の“失敗の集大成”なのである。