こうした感情の内在化は、決して難しいことではありません。多くの人が乳幼児の時点ですでに経験しているはずです。
小さい頃、母親の姿が見えなくなると泣き叫んだのは、自分の外側にいる母親に依存しきっていたからです。しかし、少し長じて、「母親はいつもすぐ近くにいて、いざとなれば助けてくれる」と信頼するようになると、その場に母親の姿がなくても安心してひとり遊びができるようになります。それが子どもの自立心の育成につながります。
これは、「1人でいること」のポジティブな面に注目したイギリスの精神科医のウィニコットが提唱した「1人でいられる能力(the capacity to be alone)」の話ですが、まさしくそれこそ、母親と自分との関係性の中で生じた感情の内在化で、自己の内面に新しい自分を生み出す力といえます。
孤独を自分の中に取り込み、自己を客観視することで、自分の中の多様性が生まれます。それはとりもなおさず、他者とのつながりが自分にとってかけがえのないものであることを意味します。
つまり、孤独を知るからこそ、そして、孤独を通して自分と向き合えるからこそ、他者を思いやれるのです。「自分が孤独だと感じたことのない人は、人を愛せない」とは瀬戸内寂聴さんの言葉ですが、まさしくその通りです。
孤独をこの世から抹消しないといけない「悪」としてとらえることは何の問題解決にもなりません。悪でもないし、敵でもない。一生付き合っていく「自分の中に生まれたあなた」そのものなのです。孤独を悪扱いして、大切に育てられない者こそ真の「ひとりぼっち」なのだといえます。