抗体とは何か知っていますか? 何となく、「ワクチンなどで人為的に病原菌を入れて、それに勝つ体をつくる」とは知っているけど……という方も多いのではないでしょうか? 前回記事では免疫についてお伝えしましたが、今回は抗体について詳しく説明します。
まず、知っておいてほしいことは、体の中での出来事は、物理的に「タンパク質とタンパク質の形がぴったり合ってくっつく」ことで起こるということです。体のたくさんの現象は、まるで、「鍵と鍵穴」のように、形の一部が合うことで、動いたりします。ぜひこれを覚えておいてください。
まず、ウイルスがどう細胞に入ってくるかを知りましょう。ウイルスは、細胞ならどれにでも入れるわけではありません。細胞に入るには鍵が必要です。
例えば、あなたが自宅に入るときに、鍵穴に自宅以外の鍵を差し込んでも開かないのと同じで、ウイルスは自分の表面にあるスパイクというタンパク質の形に合ったタンパク質を細胞の表面に見つけないと侵入できません。ここでも、鍵と鍵穴のような関係が必要です。ウイルスが鍵を持ち、細胞が鍵穴を持たないといけないのです。
「なんで敵が細胞に合った形の鍵を持ってるの?」と思う人もいるかもしれません。ウイルスは進化の過程で、合鍵を手に入れたのです。しかも、「ぴったり」の程度はけっこう曖昧で、似たような鍵で、鍵穴がなんとなくはまって開くようなイメージです。
抗体も、この原理です。「鍵と鍵穴方式」で侵入を防ぎます。ウイルスという鍵にくっついて、鍵穴に差し込めなくするのです。
実際にあなたの家の鍵も、鍵穴に差し込む部分に何かがくっついてしまったら、差し込めなくなりますね。抗体はウイルスにくっついて鍵の形自体を変え、細胞の鍵穴と合わないようにしようとするわけです。
ただ、抗体の大きな問題があります。それは、せっかく抗体ができても、ウイルスの鍵じゃない部分にくっついてしまう、つまり「効かない」抗体ができることもあります。
抗体は、くっつく場所が重要で、正確に鍵の先の部分にくっつけばいいのですが、それ以外の部分に抗体がくっついても意味がありません。結局鍵穴と合ってしまうと、ウイルスは細胞に入れてしまいます。
鍵の鍵穴に差し込む部分にしっかりくっつける抗体を中和抗体と呼びます。しかし、この中和抗体ができているかどうかは通常の抗体検査ではわかりません。ウイルスに対する抗体があるかどうかはわかりますが、抗体検査ではウイルスの鍵じゃない部分にくっつく、つまり役に立たない抗体も検出してしまいます。どこにくっつく抗体でも「抗体あり」となります。驚かれた方もいるのではないでしょうか。抗体ができても、効く抗体かどうかはわからないわけです。
だから、もし抗体検査を受けて抗体があったからといって、感染しても絶対大丈夫という保証にはなりません。もちろん、罹患した人の数がわかるという意味では、検査は無意味ではありません。ただ、完全な安心材料にはなりません。
ところで、抗体はウイルスの細胞への侵入を妨害するだけではなく、さらにいろいろな役割があります。抗体自体は相手にくっつくだけで相手を殺したりはできませんが、例えば細菌にくっついて、それが目印になって食細胞が細菌を食べることができます。