【図表1】を見てほしい。1998年にマイホームに入居した人は「控除期間6年」「最大控除額180万円」だったのが、翌年には一気に「控除期間15年」「最大控除額587万5000円」へと拡充された。これは今までに最も大盤振る舞いされた金額である。
ユニークなのは2007年と2008年だ。「控除期間10年」あるいは「控除期間15年」を自分で選択できるという荒手に打って出た。還付される最大控除額は、どちらも同じだ。両者の違いは控除率にあり、2007年入居の場合、【図表2】のようになっていた。
補足しておくと「借入金の年末残高」とは、ある年の住宅ローンの年末残高がたとえば4000万円だったとしても、控除額の計算対象となる残高は4000万円のうちの2500万円までという意味だ。
「控除期間15年」を選択したとしよう。各年の最大控除額は1年目から10年目までが毎年15万円(年末残高2500万円×控除率0.6%)となり、11年目から15年目までが毎年10万円(年末残高2500万円×控除率0.4%)となる。
そして、この各年分を15年間分、合計した金額が200万円(=最大控除額)となる計算だ。この計算方法は「控除期間10年」を選択してもまったく同じで、最大控除額も200万円で変わりない。
なぜ、こうした選択適用を認めたかというと、2006年度税制改正に伴い、「三位一体改革」の一環として所得税から個人住民税へ3兆円規模の税源移譲が実施されたからだ。これにより還付額の実質的な引き下げ(減額)が懸念されたのだ。そこで、税源移譲に伴う住宅ローン減税の効果を目減りさせないよう選択制が取り入れられた。
そして、2009年には再び最大控除額が大きく引き上げられた。その当時、総理大臣だった麻生太郎氏が声高に「規模を過去最大にする」と公言したのだ。まさに鶴の一声で最大控除額は160万円から500万円に跳ね上がった。
それだけ住宅ローン減税は時の政権による政治的判断で改正が繰り返されていた。税制を通じて住宅投資を刺激しようという狙いだ。経済対策の柱として、もはや住宅ローン減税はゆるぎない“不動の地位”を築いている。
この政治的判断が最も顕著に表れたのが消費税率の引き上げ時だ。過去、増税されるたびに住宅ローン減税は見直されてきた。
マイホームは購入価格が高額なため、増税による「痛税感」は強い。そのため増税前に需要(先食い)が集中し、増税後には反動減で減退する。事実、消費税が8%に増税された年、新設住宅着工戸数は大きく減少した。そこで、税負担増による影響を緩和・平準化し、住宅政策の方向性が損なわれないようにする観点から、住宅ローン減税の拡充をはじめとする税制上の措置が講じられてきた。
具体的には2014年4月以降(8%増税時)、最大控除額が200万円から400万円へと倍増された。同時に、住民税からの控除上限額も9万7500円から13万6500円へと引き上げられた(2013年度税制改正)。
さらに、2019年10月以降(10%増税時)は住宅ローン減税の控除期間が10年から13年へと3年間延長された(2019年度税制改正)。利上げされた消費税2%負担分を、控除期間3年間の延長で穴埋めしようという発想だ。
しかし、誰もが想定しない事態に直面した。突如、新型コロナウイルスが猛威を振るい始め、見えない恐怖が人々を苦しめた。出口の見えない経済不安が世界に蔓延し、冒頭で触れたようにわが国の住宅市場は縮小を余儀なくされた。
新型コロナの感染拡大でサプライチェーンは寸断し、建築資材や住宅設備の流通がストップした。その結果、建物の工事が停滞し、予定通りに住宅を引き渡せない事態となった。