「人へのアドバイス」はなぜしてはいけないのか

ですが、本当の意味で役に立つアドバイスをする、というのは、カウンセラーでも難しいこと。なぜなら、悩みを抱えている相手と自分は別の人間で、価値観も考え方も違うからです。そのため、一生懸命考えてアドバイスしたとしても、相手にとっては的外れだったりします。そんなアドバイスは相手に響きませんし、もちろん相手が変わることもないのです。

そして、こうしたことが、1回や2回ならまだしも、何度も何度も続くと、いつかはあなたも限界を迎えます。「あなたのために、我慢して聞いてアドバイスしてあげたのに」と感じるわけです。

一方のために、他方が我慢して尽くす関係というのは危ういもので、どちらか一方の心境や環境の変化ですぐに崩れてしまうものです。大事な人の話なのに聞きたくないと思ったり、相手のことを嫌いになったりするかもしれません。

「友達のために」と一生懸命聞いてアドバイスを考えたのに、相手のためにならないどころか、友人関係がダメになってしまっては、悲しいですよね。

もう1つ、ここで知っておいていただきたいのが、アドバイスというのは、する側の「承認欲求」の表れでもあるということです。

承認欲求とは、「人から好かれたい」「すごい人だと思われたい」といった気持ちのことで、誰にでもあります。満たされれば幸福感やモチベーションにもつながる、大切な感情です。

ただ、この承認欲求は、人の話を聞いているときにもしばしば頭をもたげ、相手を評価したり、本来必要のないアドバイスをしたりする原因にもなります。

「相手が感動するような、すごいことを言いたい」「自分の知識や経験を示したい」という考えがもとになっているもので、結局は自己満足なのだということを理解しておきましょう。

アドバイスを求めているわけではない

・「ただ聞く」だけでいい

では、アドバイスを求められたときは、どのようにしたらいいのでしょうか?

答えは簡単で、「ただ聞くだけ」です。相手の気持ちを、「あなたはそう感じているんだね」とそのまま受け止めてあげるだけでいいのです。

繰り返しになりますが、相談という形をとっていても、本当にアドバイスを求めているわけではありません。つらい感情を吐き出して楽になりたい、あるいは迷っている自分を後押しする言葉をかけてほしい、という場合がほとんどです。あなたにも、「心が苦しくてやりきれなくて、ただ聞いてほしかった」という経験があるのではないでしょうか?

ですから、「どう思う?」「どうしたらいいと思う?」と相談されたら、悩んでいる気持ちを受け止めた後に、このように返してみてください。

「あなたはどう思うの?」
「あなたはどうしたいの?」

このフレーズをきっかけに、相手が本心を打ち明けてくれることもあります。この本心こそが、相手が本当に聞いてもらいたいことです。相手が話し始めたら、相手の気持ちを受け止めつつ、ただ話を聞くことに集中してください。頑張ってアドバイスを考えたり、「相手にどうしたら伝わるかな」と悩んだりしなくて大丈夫です。

「今、この瞬間」を共有することが大切

人は、自分の気持ちをそのまま受け止めてもらえたと感じると、それだけで心が浄化され、「聞いてもらえて楽になった」と思うものです。「ただ聞くこと」には、それだけ大きな力があります。

『『聞き上手さん』の「しんどい」がなくなる本 自分も相手も嫌いにならない話の聞き方』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします )

人は皆、悩みを自分で解決する力を持っています。黙って話を聞くというのは、相手のその力を引き出すことであり、相手を信頼することでもあります。

また、話を聞く楽しさとは、相手の「今、ここ」を理解し、共有することです。

聞き手としては、相手の過去や未来に関わることができません。唯一できるのは、「今、この瞬間」に相手に起こっていることをそのまま受け止め、分かち合うことだけです。

『『聞き上手さん』の「しんどい」がなくなる本』では、マンガと本文で、疲れなくなる話の聞き方を具体的にわかりやすく解説しています。

余計なエネルギーを使わずに、肩の力を抜いて話を聞くヒントが満載ですので、ぜひ、参考にしていただければと思います。人間関係が楽しく、楽になることを願って。