『鬼滅の刃』に『ソードアート・オンライン』、『Fate』シリーズなど、昨今話題になっている人気アニメにはある共通点が存在する。それは東京都にある独立系テレビ局、東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX 以下、東京MX)で放送されたということだ。
日本テレビなど「民放キー局」と呼ばれるテレビ局は関東圏全域を対象に放送を行いつつ、地方にある系列ネットワーク局と連携して全国に番組を届けている。一方、1995年に放送を開始した東京MXは、首都圏のみを放送対象としている独立放送局だ。そのため、首都圏在住でない人にとっては馴染みの薄い放送局かもしれない。
同社の2020年3月期の決算公告によれば、売上高は156億円、営業利益は7.6億円だった。在京キー局のなかで最も規模が小さいテレビ東京ホールディングスでも売上高は1451億円、営業利益は51.2億円であるから、東京MXがいかに小規模な放送局かがわかる。
東京MXでアニメ事業を管轄する北澤晋一郎事業局長も「(キー局などと比べて)人もお金も圧倒的に足りない」と話す。そんな同社が、アニメ領域では冒頭の通り、『鬼滅の刃』などの人気作品の放送権を多く獲得している。競争力の源泉はどこにあるのか。
東京MXがアニメ放送に力を入れ始めたのは2000年以降だ。子ども向けのテレビアニメをラインナップに取りそろえることで、一般視聴者に幼少期からMXの存在を認知してもらい、大人になっても見続けてもらえる環境を整えようという目的があったという。
それまでアニメ放送の経験が少なかったことから、当初は新作アニメの放送権を獲得することが容易ではなかった。「(旧作である)あだち充さんの『タッチ』を1年中放送したり、朝を含めさまざまな時間帯でアニメ放送を行うことで、(アニメ注力の姿勢が外部にも伝わり)徐々に新作アニメの放送権を獲得できるようになっていった」(北澤氏)。
そうした環境づくりの中で、『涼宮ハルヒの憂鬱』といった、DVDやグッズ販売に貢献する大ヒット作が東京MXの放送枠から生まれたことも大きかった。
「それまでは製作者側に(首都圏の視聴者にしか番組を届けられない)東京MXで重要な作品を放送していいのか?といった迷いもあったはずだが、全国で認知されるような大ヒット作が生まれたことで、ジャンプやマガジン、サンデーといった週刊少年誌連載の原作アニメも放送できるようになっていった」(北澤氏)
東京MX発で大ヒット作を生めると証明できたことに加え、同社が誇る「圧倒的なアニメ枠の量」も作品が集まる理由の1つとなった。在京キー局は視聴率を重視するため、老若男女さまざまな視聴者層に支持される番組を放送することを重視する傾向がある。そのためコアなファンがいる一方で他番組と比べターゲットが絞られるアニメ作品の放送枠は、多くても週に2~3本程度とするのが一般的だ。
だが東京MXはもともと規模が小さいがゆえにこの限りではなく、「思い切った編成を行える」(北澤氏)。現に2021年の1~3月、東京MXで放送しているアニメ作品は約40に上る。新作だけで1日約5作品を毎週放送している状態だ。
放送枠自体を豊富に用意することで、今までは放送できていなかったニッチな作品も果敢にチャレンジすることができるようになった。すると、他社と比べ一定期間にヒット作を生める確率も高くなる、という好循環ができあがった。