さらに多くのアニメ関係者は、東京MXで作品を放送する利点として、「局印税」と呼ばれる費用が発生しない場合が多いことも挙げる。
局印税とはテレビ局でアニメを放送する際、テレビ局側が「放送がアニメの宣伝になっている」などという理由で製作者側に支払いを要求する費用だ。アニメの製作委員会は、放送する時間帯のテレビCM枠をテレビ局から買い上げることが一般的。そのため、こうしたCM買い上げに加えて、さらに支払いを求められることになる。大手製作会社の幹部からは「(CM枠をすでに買い上げているのに)なぜ追加で費用を支払う必要があるのか納得がいかない」という不満の声も聞こえてくる。
東京MXのアニメ放送では、キー局のような局印税を取らないケースもあり、CM枠の買い上げのみで済む場合が多い。そのためアニメ製作委員会にとっては、キー局で放送するよりも安上がりというわけだ。
アニメ出資に携わる広告代理店首脳の一人は「アニメにはコアなファンが多く、キー局であろうと(東京MXのような)独立局であろうと関係なく観てもらえる」と語る。コアなファンに届けば、大きな収益源となるDVDやグッズ、配信などの収入獲得にも十分つながる。そうした判断もあり、東京MXに有力作品を供給する流れができあがった。
今後もこうした流れが続く公算は大きい。冒頭で触れた通り、2020年に最もヒットしたアニメ『鬼滅の刃』は当初東京MXが放送したものだった。最初から爆発的人気ではないが、動画配信などの影響もあり話題が話題を呼び、映画は歴代興行収入トップとなる驚異的な大ヒットとなった。
つまり、高いコストが発生する民放キー局の枠を最初から押さえなくとも、驚異的な大ヒットが生まれることが証明されたわけだ。今後も”二匹目のドジョウ”を狙い、コスト面でメリットの大きい東京MXに作品が集中する可能性は高い。
むろん、キー局もそうした事態を黙って見ているわけではない。テレビCMの広告収入が減少している中、各社は新しい収益源を模索しており、その1つとしてアニメに注目する会社が増えている。
日本テレビは2020年10月にアニメ事業部を新設、アニメ強化の方針を社内外に打ち出した。また、テレビ朝日も2020年4月に深夜アニメ枠を新設するなどの動きを見せている。いち早く在京キー局でアニメ版権に取り組んでいたテレビ東京HDでは、アニメ版権を含めたライツ事業の粗利益率を全社の40%以上に高めることを目指す(2020年3月期時点で約33%)という方針を掲げ、今後もアニメ放送を強化していくことは間違いない。
当初は東京MXなどで放送されていた『鬼滅の刃』も、映画公開に合わせてキー局であるフジテレビがゴールデンタイムで後追い放送するなど、人気が出た作品は同社以外のテレビ局で放送されるケースも珍しくなくなっている。
東京MXのアニメの多くは同社が製作委員会に出資する形ではなく、あくまでCM提供費を負担してもらうという立場で関与している。『鬼滅の刃』も同様で、東京MXには自局以外のどこで放送するかを制限する権利は持っていない。そのため、人気になった作品にキー局が目をつけてしまうと、そのまま繫ぎ止めることが難しいことも事実だ。
北澤氏は「(東京MXから)自社企画で製作したアニメはまだ少ない。今後はそうした自社企画の取り組みからもヒットを生み出したい」と語る。製作委員会の主幹事として企画製作することは、資金面や人材面などで大きな負担がかかる。そのため簡単にできることではないが、東京MXでは少しずつ製作委員会へ参加し、アニメ製作の知見を深めている。
当初は新作を放送することすら難しかったが東京MXだが、今では大ヒット作を放送するところまでは力を付けた。もう一段の進化を遂げられるか。