――大統領選挙前後の時期に自ら現地を訪れた目的は?
1つは、アメリカで起きていることを直に見て回ることでリモートだとわからない情報とか感覚を得ること。日本でも実際にユーザーと触れ合ってサービス作りに生かすことを重視しており、アメリカでも現地の暮らしを実体験しニーズを把握するようにしている。
もう1つの目的が、アメリカの民主主義を学ぶこと。19世紀のフランスの政治思想家、トゥクヴィルが『アメリカのデモクラシー』という大変有名な本を書いていて、「彼がアメリカを再発見した」と言われている。アメリカ民主主義の本質的な強み・弱みとか、アメリカ人自身が理解できていないことも多い。トクヴィルに習うわけじゃないが、アメリカを回ることによって僕も外国人の視点から発見できることがあるんじゃないかと。
――大統領選挙の時期に現地を回るのは2度目とのことですが、前回(2016年)と今回(2020年)を比べて、今回で際立って印象に残ったことはありますか。
大きく2つある。まず分断が加速している、顕在化しているということ。4年前にも分断というのはあっただろうが、そこまで顕在化しているとは感じなかった。今回はリベラルもコンサバも、両者を強く意識させられた。
もう1つは、分断の単位が非常に細かくなっているということ。アメリカの地図がレッドステート(共和党支持者が多い州)、ブルーステート(民主党支持者が多い州)で色分けされているのを見ると思う。
ただ、例えばテキサスは赤く塗られているが、細かく見ると地域単位で違っている。ダラスやヒューストンは民主党支持が強く、田舎に行くほど共和党が強い。1つの州の中が一色でないのは、カリフォルニアでもどこでも同じだ。
――その分断について、メディアの責任をどう分析しますか。
非常に重要な論点だ。社会の分断がいったい何によって生じているのか、大きく3つの説がある。1つが、メディアが分断したから社会が分断したというもの。2つ目は、政治や議会が先に分断したというもの。3つ目が、国民が先に分断したというもの。実態としてはこれらが相互に入り乱れて、混合して強化し合って分断が加速しているのだと思う。
メディアの分断の話でいうと、アメリカではフェアネスドクトリン、つまり公共の電波を使って政治的な内容を扱う場合においては、民主党・共和党双方の意見をバランスよく扱わねばならないという決まりがあったが、これが1987年に撤廃されて、それ以降とくにラジオ局を中心に、片方の立場に偏ってもいいという傾向が強まった。