SmartNewsが「アメリカの分断」にかける勝負

エンジニアの数は1年半で3倍超に

――2019年の6月に「プレイステーションの父」として知られる久夛良木健氏を社外取締役に迎えるなど、経営体制を強化しました。「グローバル開発体制整備」を目的とした体制強化とのことでしたが、その後の進捗は?

目指していた体制は、かなり形ができてきた。まずリーダーシップをグローバル化することができた。今スマートニュースの開発の責任者はアメリカ・サンフランシスコにいて、そこから日本、アメリカ両方のプロダクトを見ている。エンジニア組織の責任者も一人が日本、一人がアメリカにいて、そこから日米の開発を指揮している。

エンジニアの数は1年半(2019年6月~2020年12月)で3倍以上に増えたが、東京オフィスの新規採用エンジニアは約8割が海外出身者になった。

プロダクトの面でも、日本版アプリで開発した機能をアメリカ版にも実装することや、その逆も増えている。新型コロナ関連の情報のダッシュボード、雨雲レーダーなどの機能は、日本で作ったものを、時間を置かずにアメリカでも展開した。日米が密に連携しているからこそ開発が加速して、利用者に便利な新機能を次々届けられている。

――同業である上場企業のユーザベースやグノシーを見ていると、海外事業の撤退や稼ぎ方の見直しなど、経営が曲がり角に来ている部分があります。スマートニュースにおいては、広告・販促がメインの稼ぎ方に限界は感じませんか。

スマートニュースの今の収益が広告事業に寄っているのは事実。ただ、そこは引き続き成長しているし、まだまだ成長していくと確信している。出た収益を事業に再投資すること、それを賄える基盤づくりをすることも重要だ。われわれは非上場なので、(ベンチャーキャピタルなどからの)資金調達も使いながら、順調に進められていると思っている。

むろん、非上場とはいえ事業を通じて収益を生み出すことには、昔から変わらずこだわってやってきている。近年はスマートニュースとして提供できているコンテンツのバリエーションが豊かになってきた。そうした中で収益化の手段も増やせている。

アメリカの攻略方法に「唯一の正解」などない

――ユーザベースは2018年に買収したアメリカのニュースサイト「Quartz(クオーツ)」運営会社を売却しました。ビジネスモデルは違うものの、同じアメリカで同じメディア事業を展開する日本企業として、どう受け止めていますか。

僕もクオーツと梅田さん(ユーザベース創業者の梅田優祐氏)の挑戦は応援していたので、個人的には非常に残念だが、ナイスチャレンジだったなと思っている。挑戦のないところに成功も失敗もない。スマートニュース自身、まさに今アメリカで挑戦している最中。成功への答えを持っているわけではないので、試行錯誤を続けるのみだ。

すずき・けん 1998年慶應義塾大学理工学部物理学科卒業。2009年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。情報処理推進機構から天才プログラマーに認定。 東京財団研究員、国際大学グローバル・コミュニケーションセンター主任研究員などを歴任。2012年スマートニュース株式会社(旧:株式会社ゴクロ)を共同創業(写真:スマートニュース)

――成功に近づくための要素としてあるとすれば、先ほどから強調しているグローバル化した開発体制でしょうか。

スマートニュースはある種、それを徹底してやっている組織だが、もちろんこれにはトレードオフがある。日本1拠点で開発するより、日米の拠点間のコミュニケーションを図るのが大変だったりする。あえて困難なチャレンジをしていると思う。

やっぱりソフトウェアって、レバレッジが利く。つまり一度作ったものがほかの地域でも応用しやすいというのは大きな特徴だ。しかも、メルカリのようなコマース系アプリはローカリティ(地域性)が強いのに対し、情報系アプリは比較的使い回しがしやすい。だから、スマートニュースには日米が相互に連携するグローバル開発体制が合っているように思う。

どういう体制を敷くのが正解なのかはサービスによって異なる。ほかで成功しているものを闇雲に真似ればいいわけじゃない。自分たちにとって何が正しいのか、見極め続けなければならない。