「夜が厳しいならランチに手を出せばいい、というほど甘くはない。今回の緊急事態宣言中、月5億~6億円の赤字は覚悟している。(時短営業の要請を)順守させていただくが、このままでは日本の外食産業が崩壊すると危惧している」
外食大手・ワタミの渡邉美樹会長は、宣言への対応策を発表した1月8日の会見で危機感をあらわにした。同日、首都圏の1都3県に緊急事態宣言が再発令された。2020年4月とは異なり、飲食を通じた感染のリスク低減に軸足が置かれ、飲食店は2月7日まで営業時間を20時までとするよう要請されている。追加対象となった地域でも、同様の措置が順次採られる予定だ(東洋経済プラスでは「データが物語る飲食店の深刻な打撃」を掲載しています)。
酒類の提供は19時までという制限があるため、夜が稼ぎ時だった居酒屋などは苦渋の決断を迫られている。ワタミは1都3県に展開する居酒屋100店のうち、83店の臨時休業に踏み切った。営業を続けると、かえって赤字額が大きくなるとの判断だった。串カツ田中も、1都3県の84店に加えて関西圏などの25店を臨時休業とすることにした。
菅義偉首相は再発令を表明した記者会見で、飲食店の厳しい経営状況を考慮し、時短営業に協力した場合に支払う協力金の額を引き上げると説明した。だが、一口に飲食店といっても、業態や立地によって実態は大きく異なる。協力金は1店舗当たり一律で1日6万円。1月8日から時短要請に応じた場合、186万円を受け取れるが、固定費負担が重い都心の大型店の場合はこの金額では焼け石に水でしかない。
飲食店向けの不動産情報サイトを見ると、渋谷駅周辺の店舗賃料は坪当たり月約3.5万円が相場。50坪の店舗の場合、協力金で何とか賃料だけは賄える。しかし東京都の場合、給付の対象は資本金5000万円以下か従業員数50人以下の中小・零細企業に限られている。大企業だと時短営業に応じても協力金は1円も支払われない。
「1店舗6万円という給付金の多寡も問題だが、大手チェーンは(中小飲食店に対する支援と)同じ土俵にすら立てていない」。外食最大の業界団体である一般社団法人日本フードサービス協会の石井滋・常務理事は、そう指摘する。
その一方で、時短営業を行わなかった場合は店名が公表される。アメは不十分であるものの、ムチはしっかりと用意されているというわけだ。
「店名公表によるバッシングを避けるため泣く泣く時短営業に踏み切った。大手は個人店よりもやり玉に挙げられやすい」。都内に数十店舗を展開するある外食チェーンの幹部は諦め口調だ。
事業者向け支援策としては、これまで政府からは家賃支援給付金や持続化給付金が支給されてきたが、資本金10億円以上の大企業は対象外。東京都からは飲食店などに対し「感染拡大防止協力金」が支給されてきたが、資本金5000万円以下または従業員50人以下の中小・零細企業のみが対象となってきた。都の担当者は「東京は他県に比べてチェーンの数が多いため、財源の観点から対象外とした。大手であれば中小などよりも(資金繰りなどで)対応力もあるだろう」と説明する。
大手に対する支援が限られるため、時間短縮営業に応じられないとの声をあげたチェーンもある。「博多劇場」などを展開する一家ダイニングプロジェクトの武長太郎社長は「資本主義経済においては自由競争が原則。そのうえで我々は夜のマーケットを中心に戦っている。こうした中、行政が20時以降の営業を制限するのであればやはり補償を伴うべき。一企業の代表として、会社、従業員、(生産者などの)ステークホルダーを守るために(協力金が出ない)東京エリアを中心に通常営業に踏み切った」と語る。