コカ・コーラが「たまに買う客」を重視する真相

本書の著者・シャープ教授は、「消費者に製品の違いを納得させる必要はない。消費者の購買を促す仕組みづくり、つまり独自性があるブランディングに注力すべきだ」と言う。製品の機能の違いである差別化はいずれライバルに追いつかれるので長く続かないが、独自性があるエッジが立ったブランディングは、一度構築すれば長続きする。

ブランド・ロイヤルティを育てるには、消費者にブランドがすぐわかるように目立たせることだ。例えばマクドナルドの金色のアーチ、コカ・コーラの赤、ナイキのスウォッシュマークと「Just do it.」のメッセージ、アップルのリンゴマークは、他ブランドとの違いが一目瞭然だ。

現代の消費者は、情報過多に陥っている。ブランドが独自性をもち、一目でわかれば商品についてあれこれ考えたり、探し回る必要がなくなり、消費者自身の生活も快適になる。

「すぐに思い出し、かつ買いやすい」ブランドが強い

顧客を獲得するために、ブランドで何よりも重要なのは、「メンタル・アベイラビリティ」と「フィジカル・アベイラビリティ」の2つである。

メンタル・アベイラビリティとは、何かを購入する際に、そのブランドが思い出されやすいことだ。例えば「ランチにしよう」と思ったときに、消費者が真っ先に「吉野家」を筆頭に思い浮かべれば、吉野家というブランドが選ばれて、売れるようになる。

もう1つのフィジカル・アベイラビリティとは、消費者が商品が欲しいときに店頭に商品があってすぐ買える状態にすることだ。例えば吉野家の場合、「吉野家で牛丼を食べたい」と思ったときに、すぐ近くに店があることが重要だ。もし吉野家がなければ、「吉野家で牛丼食べたい」と思った消費者は、松屋かすき家などのライバルに流れてしまう。

市場シェアが大きいブランドは、このメンタル・アベイラビリティとフィジカル・アベイラビリティがともに大きいのである。

『ブランディングの科学』は従来のマーケティングの常識に真っ向から挑戦している。

しかしあなたはここまで読んで、「消費者として自分の感覚とこの理論は、意外と合っている……」と感じたのではないだろうか?

私たちがアイスクリームを選ぶとき、気分次第でバニラを選んだりショコラを選ぶ。しかし従来のマーケティング理論では、「ターゲット顧客は、つねにどちらかを選ぶ」と想定しがちだ。また私たちはお気に入りのレストランがあっても、近所に美味しい店があれば気兼ねなく店を変えてしまう。しかし従来のマーケティング理論では、「お得意様は、つねに自分たちを選び続けてくれる」と考えがちだ。

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従来のマーケティング理論では説明できなかった私たちのこの日常的な感覚を、著者のシャープ教授は本書で実に明快に説明してくれている。だからシャープ教授には著名な大企業からコンサルティング依頼が殺到しているし、この新しい理論を活用した企業は、大きな成果を上げているという。

マーケティングの考え方は、つねに進化し続けている。新しいマーケティング理論を知ってビジネスで活用することでライバルに半歩先んじれば、つねにビジネスで勝つことができる。

最新のマーケティング理論を自分のビジネスに即してわかりやすく学ぶ意味は、まさにこの点にあるのだ。