コカ・コーラが「たまに買う客」を重視する真相

似たような自社商品を、同じ顧客にどんどん売れ

「ターゲットを絞り込め」とよく言われる。例えばダイエット飲料は女性を対象に広告を出している。しかし実際にレギュラー飲料とダイエット飲料の顧客層を分析すると、ほぼ同じ顧客層に売れている。男女比率もほぼ同じだ。

わかりやすくたとえると、バニラアイスクリームを買う人とショコラアイスクリームを買う人は、同じ人なのだ。同じ人がそのときの気分次第で、バニラを買うときもあれば、ショコラを買うときもある。「そんなの当たり前だ」と思うかもしれない。しかしあなたの会社は、2つの商品の顧客ターゲットを、分けて考えていないだろうか。

コカ・コーラ社がコーク、ファンタ、スプライトなど多くの飲料ブランドを売っているのは、消費者ニーズにきめ細かく応えるためではない。実際に調査すると、飲料ブランドはどこも最も売れているコークと7割の顧客を共有している。つまりコークと各飲料ブランドの顧客はほぼ同じなのだ。どんな製品カテゴリーでも、顧客の多くを最大シェアのブランドと共有する。これを「購買重複の法則」という。

ではコカ・コーラは数多くの自社ブランドを同じ顧客に売って、問題はないのか?

脊髄反射で「同じ顧客に自社商品をいくつも売り込むと共食いになるので、絶対ダメ」と思いがちだが、実はまったく問題はない。要は、どれかが消費者に選ばれればいいのだ。大切なのは市場でブランドが目立つことだ。

もしあなたがまったく新しいソフトドリンク会社を設立して、その会社でブランドを自由に2つ選べるチャンスがあったとしたら、選ぶべきは「コークとファンタ」ではない。世界で最も売れている「コークとペプシ」なのである。同じコーラ飲料でも、まったく問題はない、ということだ。

アップルの新商品の発売前日に徹夜で店に並ぶファンの人だかりや、アメリカでハーレーにまたがった熱狂的バイカーが一堂に集まる光景を、私たちはニュースなどでよく目にする。アップルとハーレーダビッドソンは、熱狂的な顧客が多いと思われているブランドの筆頭だ。そこで多くの人たちが「わが社もアップルやハーレーのような熱狂的顧客を作り出すべきだ」と考える。しかしこれは大間違いである。

実際にパソコンの反復購買率(同じブランドを再購入する比率)を調べると、シェア1位のデルは71%、HPは52%、アップルは55%。アップルは他社パソコンとの互換性がない割には、反復購買率はとくに大きくない。熱狂的顧客の影響は見られない。

では、ハーレーの所有者はどうか? 熱狂的ハーレーライダーは全体の10%だが、売り上げは全体のわずか3.5%だ。彼らは低所得で収入を部品に注ぎ込み、しかもバイクを買い替えないので、売り上げ貢献度は低い。

実際にはハーレー所有者全体の40%は不満足で、車庫にバイクを入れっぱなしだ。またハーレー所有者の反復購買率は33%。顧客ロイヤルティ指数としては平均値だ。

つまりアップルもハーレーも、熱狂的信者は少数派なのが現実だ。実は売り上げの面で最も重要なのは、ブランドのことをあまり深く考えずに商品を買って売り上げに大きく貢献してくれる「ブランドにさほど興味がない」人たちなのである。

「差別化」ではなく「独自性」を追え

よく「ブランドを差別化して、消費者にわかりやすく示せ」と言われる。差別化はブランドでは必要不可欠と思われているが、実際に調査すると、消費者は企業が仕掛ける差別化にほとんど気づいていないのが現実だ。

「差別化」というと真っ先に思い浮かぶアップルでさえ、ユーザーの77%は「アップルは他ブランドと異なる」「ユニークだ」とは認識していない。マックは独自のシステムだが、多くのユーザーは技術に疎い。他社パソコンと同じメールや文書作成作業をするためにマックを買っている。つまり現実には、大成功したアップルでさえ差別化には成功していないのである。