東大発ベンチャーが仕掛ける新しい「音楽教室」

フォニムのビジネスモデルは、こうした独自コンテンツを持っているがゆえに可能になる。宍戸社長は「単なるマッチングアプリやコミュニティーサービスではなく、実業をやりたいという思いが強かった。だからこそ、独自コンテンツの作成に一番時間をかけている」と語る。

宍戸社長は弱冠26歳。東京大学経済学部を卒業してすぐにフォニムを設立した。小さいときからピアノを習い、高校までは本気でピアニストになるつもりだった。師事していていた先生から「ピアニストになるには英語や西欧の歴史を勉強しておいたほうがいい」と言われたことをきっかけに、勉強を開始。一度も予備校に通わず、参考書だけで東大に合格してしまったという秀才だ。

大学ではエンジェル投資家として著名な故・瀧本哲史氏のゼミに所属、企業分析を学んだ。「実業」をやりたいと思ったのも、この時の経験が生きているようだ。

フォニムの宍戸光達社長(右)と共同創業者の渡辺陽樹氏。2人はともに瀧本ゼミで学んだ(記者撮影)

起業にこだわっていたわけではないが、官公庁や大企業志向でもなかった。「自然に東大に入ったから、こだわりはなかった。自分にあるのは”雑草魂”ですかね」(宍戸社長)。起業に至ったのは、以前志していた音楽の世界がどうなっているのかを「分析」した結果、「フォニムのモデルを考えれば考えるほど、うまく行くと思った」(同)からにすぎない。

「レッスン業界のネットフリックスになりたい」

フォニムのサービスは今年7月から始まっており、来年3月には利用者2500人を目指す。そのためには、講師となる若手ミュージシャンのネットワークの拡充がポイントの1つとなる。若手ミュージシャンは音楽だけではなかなか食べていけない。行動が制限されるコロナ禍ではなおさらだ。そうしたミュージシャンと受講生をつなぐ役割を担うことで、ミュージシャンの理解を得る考えだ。

冒頭に登場したアメリカ老舗ギターメーカー・フェンダーでは、オンラインでギターレッスンを受けられる「フェンダープレイ」を展開。報道によれば、今年3月から7月に、利用者は15万人から93万人に急増したという。

フォニムにとって、新型コロナによる巣ごもり需要は間違いなくフォローの風だ。今後3年で音楽のあらゆるジャンルをカバーするレッスンのプラットフォームを目指す。独自コンテンツにこだわることで、「レッスン業界のネットフリックスになりたい」。宍戸社長はそう夢を膨らませている。