新型コロナ拡大に伴う「巣ごもり」の中で、再び楽器を手に取る人たちが増えている。
楽器総合メーカーのヤマハは11月4日、2021年3月期の中間決算発表で「ステイホームで電子楽器の需要は堅調。ピアノも回復基調にある。ギターは全世界で需要が堅調で、日本国内では2ケタ伸びている」と、楽器需要が旺盛であることを示した。
この動きは世界的なようだ。アメリカ・ニューヨークタイムズは9月8日、「ギターが帰ってきた!」という記事を掲載。その中で、アメリカの老舗メーカー・フェンダーのアンディー・ムーニーCEOは、「今年はフェンダーの歴史の中で最大の売り上げになる」とコメント。記事では、アメリカで女性や10代の若者にもギター愛好家が増えていると伝えている。
こうした中で注目を集めるベンチャー企業がある。オンラインレッスンサービスを提供するフォニム(東京都千代田区)だ。プロフェッショナルな講師のレッスンをオンラインで受講することができる、「オンライン版の音楽教室」を展開する。
現在受講できるプログラムは、ピアノ、サックス、ヴァイオリン、クラシックギター。受講の流れは次のようになる。配信される講師による解説動画を、教材を参照しながら受講。その後、ホームワークに取り組み、自らの演奏を録音しアップロード。達成できたと思ったら次のレッスンに進む。録音したものを講師に送り、アドバイスを受けることもできる。1回のレッスンは10~20分、週2~3回送られてくる仕組みだ。
最大のウリは豪華な講師陣。若手ギタリストとして注目を集める徳永真一郎氏、即興ピアニストの榎政則氏など、海外経験も豊富な若手ミュージシャンがそろう。こうした本格的なレッスンを月額1980円から受講できる。楽器メーカーと提携し、月5000円程度から電子楽器の貸し出しも行っており、電子楽器は1年半利用すると自分のものになる。
日本音楽著作権協会(JASRAC)と提携しているため、はやりの曲や現代曲をレッスンの素材にできるのも特徴だ。フォニムは、一流の講師陣から弾きたい曲を教わることができる、大人向けに特化した音楽教室といえる。
なぜこのようなモデルが可能になったのか。フォニムを創業した宍戸光達氏は、その理由として「レッスンを事前収録し、非同期であること」を挙げる。
いまはZOOMなどの配信システムが発達しているため、オンラインであっても、レッスンをライブ配信し、受講生と直接やりとりすることも可能だ。しかしフォニムではあえて「非同期」とした。
非同期であれば、レッスンを録りだめすることができ、講師の負担が極端に少なくなる。受講生は時間に縛られずに好きな時、好きな場所でレッスンを受けることができる。もちろん、オンラインなので、リアルな音楽教室に必要な地代家賃は不要になる。
従来の音楽教室では講師との直接的なやりとり、つまり「同期」こそが重要だった。それをオンラインを使って「非同期」にすれば、さまざまなコストを軽減できる。そしてそこで浮いたおカネで一流の講師を呼び込むことができるという仕掛けだ。
ただし、非同期でも効果の上がるレッスンでなければならない。そこでポイントになるのが、「教材」だ。フォニムではすべての分野で独自の教材を用意。内容は本格的で、たとえば今後スタートを予定している声楽では、米フロリダ州立大学の教授の監修の下、教材を作成した。従来の音楽教材のように単に練習曲が並んでいるのではなく、理論を基礎から解説。いわば講師が教えていた内容を体系化し、言語化した教材を作った。