「人に会う」ことの目的は、“自分”という人間を相手にわかってもらうことがいちばんだと思うのだが、その目的だけからすれば、メールを使ったほうがはるかによい。なぜなら、人間はメールだと「口が軽くなる」ために、プライベートな話題などもしやすくなるからだ。
対面という状況は、意外に緊張する。そのため、相手を目の前にすると、あまりプライベートな話を切り出せず、ビジネスライクな話に終始してしまうことも少なくない。これでは、自分を売り込むこともできないし、相手と親密になることもできない。
イギリスのオープン大学のアダム・ジョンソンは、同性同士の大学生をペアにし、対面で、あるいはコンピューター上でやりとりをさせてみた。その際、どれくらい自分のプライベートな話を相手に伝えるのかを測定してみた。その結果、プライベートな話題を切り出した回数は、対面で0.7回、コンピューター上でのやりとりでは3.1回だった。
コンピューターを介したコミュニケーションのほうが、人は自分自身のことを話しやすくなるという証拠である。
実際にメールを書くときには、読んでくれる相手が楽しくなるような工夫を入れるといい。心理学には、「条件づけ」と呼ばれる、よく知られた原理がある。「パブロフの犬」の逸話は読者の皆さんも知っていると思うのだが、食事を与えるとき、毎回ベルを鳴らしていると、そのうちにベルを鳴らしただけで、よだれが出てきてしまうというのが条件づけだ。
この条件づけは、メールにも利用できる。メールを送るときに毎回、面白いこと、楽しいことなどを必ず入れるようにしていると、メールを送られた相手はそのうちに、送り主があなたであるということがわかっただけで、自然に幸せな気分になるはずだ。
しゃれた言葉を載せるのが恥ずかしいというのであれば、「いつもありがとうございます」という感謝でもいい。「ありがとう」と言われた人は、うれしい気持ちになって相手の言うことを聞き入れやすくなる。
メールを上手に使えば、いくらでも好印象を与えることが可能なのである。ぜひ試してみてほしい。
また、相手に書類を送るときには、ほんの少し香りが漂うように、1滴ほどアロマオイルなどを垂らしておくのもいいだろう。あまり香りがキツイと逆効果になってしまうので、かすかに香る程度に。
私たちは、よい香りを嗅ぐと、心が穏やかになるし、人には親切になる。もし書類を送って何かの依頼をするのであれば、こういう香りの仕かけをしておくと、うまくいく見込みが高くなる。
フランスにある南ブルターニュ大学のニコラス・ゲーガンは、ショッピング・モールで4人の女性、4人の男性協力者にお願いして、ほかの歩行者の前を歩いて、自分の手袋をさりげなく落としてもらった。
手袋を落としてから10秒以内に、「すみません、手袋を落としましたよ」と親切に教えてくれるかどうかを測定してみたのである。ただし、手袋を落とす実験の場所は、2つ準備していた。1つは、よい香りが周囲に漂っているベーカリーの前。もう1つは、まったく無臭の洋服店の前だ。