“読み聞かせ”というと、日本では「桃太郎」「浦島太郎」「はなさかじいさん」といった昔話をはじめ、メッセージ性のある物語を読むことが多いでしょう。
これは、ストーリーを通して道徳的な意識や価値観を育てようという目的が大きいと考えられますが、一方、アメリカでは読み聞かせははっきりと「勉強のため」であり、絵本は教材と考えられています。
そのため、言語教育のための「ダイアロジック・リーディング」という読み聞かせの手法も開発され、確立しているのです。
私は、ハーバード教育学大学院で「子どもとことば」という第一言語習得に関する研究を続けてきました。現在も「絵本を通してのことばの発達」を研究課題とし、日本でも「ダイアロジック・リーディング」の普及活動を行っています。
その中で、読み聞かせの手法はもちろんですが、読み聞かせる“人”によっての違いについても注目しています。
みなさんのご家庭では、どなたが主にお子さんに読み聞かせをしていますか? どうしても子どもと長く一緒にいる母親のほうが読み聞かせをする時間が長い、もしくは、読み聞かせは父親のほうが得意なので任せている、といったように、だれかひとりに偏っていることがあるかもしれません。
総務省が行った「社会生活基本調査」(平成28年)によると、6歳未満児のいる世帯の父親の家事・育児時間は1時間23分(うち育児時間は49分)です。
一方、母親は7時間34分(うち育児時間は3時間45分)を家事・育児に費やしていると報告されています。
これに対し、アメリカでは、父親の家事・育児時間は3時間25分(うち育児時間は1時間20分)で、母親は6時間1分(うち育児時間は2時間18分)という結果です。父親の育児時間が増加すると、母親の負担が減少すると考えられます。
私がアメリカ留学時にお世話になったバトラー家の父親(ジム)も、毎日の朝食を担当していましたし、夕食もよくつくっていました(ちなみに、私のお気に入りはジムがつくるポテト料理でした)。
家事をする父の姿を見て育った2人の息子たちも、いまでは父親となりましたが、自然と家事や育児に参画しています。
アメリカの母子の読み聞かせの研究協力家族と、幼稚園で待ち合わせていたときには、こんなこともありました。
父親がやってきたので「今回の研究はお母さんにお願いしていたのですが……」と告げたところ、「え、そうだったの。僕も読むから、自分でいいんだと思った」と当たり前のように言われたのです。
ハーバード大学で学んでいたときにも、父親や男性も子どもに絵本を読むことが奨励されていました。
理由は、もともと、保育園や幼稚園では女性の先生の比率が高いため、家庭で母親だけが読み聞かせをすると、「本を読むのは女性の役割」という固定観念を子どもに与えかねないからです。