また、ウーロンゴン大学のダーズマ氏の研究によると、父親と母親では読み聞かせ方が違うとの結果が出ています。
母親は絵のなかのものの名前を質問したり、数を数えさせたりしますが、父親は本のなかの出来事やものを実生活と結びつけて子どもとやりとりすることが報告されているのです。
具体的にいうと、母親は生き物や道具の名前を聞いたり、数を数えさせたりします。一方父親は、主人公が何を考えているかを問うたり、絵本に出てくるものを日常生活と結びつけたりする傾向があります。
たとえば、絵本にはしごが出てくると、父親は「この前、はしごに登って屋根の修理をしたね」と話をふくらませたりするわけです。
さらに、父親は抽象的で複雑なことばを使う傾向にある、とも報告されています。
一方で、子どもと一緒に過ごす時間の長い母親は、発達段階を心得ているため、そのレベルに合わせて話すことが多いようです。
もちろん、家庭環境はさまざまですので、状況が許せばということにはなりますが、両親それぞれが交代で読むことで、読み聞かせの可能性がさらに広がるでしょう。
ダイアロジック・リーディングが、もともと言語教育のために開発されたものであることは、これまで述べてきたとおりですが、「せっかく英語圏で生み出されたメソッドで読み聞かせをするなら、ついでに子どもに早期の英語教育もしてしまったらいいのでは?」「そのためには英語の絵本を使って読み聞かせをしたらどうだろう?」と考えた方も多いのではないでしょうか。
この点について、私の考えを述べると次のようになります。
たしかに、幼いうちから英語に触れさせれば、子どもは英語の単語や表現をすぐに覚えます。
とはいえ、それが英語という言語の習得につながるかどうかは別問題です。
いまの子どもたちは、YouTubeなどで英語に親しんでいます。
私がよく会う教え子の子は、おいしいものを食べたら「Yummy」と言いますし、ものを落としたら「Oh! no!」と叫んだりします。
ただ、これはいくつかの英語の表現を感覚で覚えているだけで、英語という言語を習得しているのとは違います。
最近では、子どもを英語で教育する幼稚園に入れている人もいます。私の同僚だった方のお孫さんは、1歳から5歳まで英語幼稚園に通っていたのですが、その間にかなり英語を話せるようになりました。
「散歩しているときに、“I see lots of people walking.”(たくさんの人が歩いているのが見える)と言ったから驚いた」という話を聞きましたから、相当複雑な文法を身につけていることがわかります。
ただ、幼児教育である程度英語を聞いたり、話したりできるようになっても、その後、普通の小学校に入ると英語を忘れてしまうことがほとんどです。
幼稚園から英語で教育して、引き続き英語力を伸ばしていくには、小学校からはインターナショナルスクールに入れるくらいでないとうまくいきません。
言語を学ぶために重要なのは、持続性です。途切れることなく長期にわたって学ぶ、生活のなかで使う、という経験があってはじめて言語習得が可能になるのです。
もし、子どもにこの先も英語環境を与え続けると決意されているなら、英語での読み聞かせもいいでしょう。しかし、そこまで考えていないのであれば、読み聞かせに英語教育としての効果は期待しないほうがいいと思います。
それよりも、日常生活で使う母語(日本語)の絵本で、思考力と言語能力をしっかりと育ててあげることをまずは優先するべきです。こうして培った力が、後に本格的に外国語を学ぶときにも生かされるはずです。
もちろん、読み聞かせのときに英語をはじめとする外国語の絵本を使うのが無意味かというと、そうではありません。
世界には、自分が使っていることばとは別の言語があること。
自分の知らない言語を使って生活している人がいること。
それを学ぶことは、異文化に対する子どもの感覚を養ううえでとても有意義です。
「英語の早期教育」とかまえるのではなく、あくまでも楽しい読み聞かせのなかのひとつのバリエーションとして、子どもと一緒に楽しむことをおすすめします。