絵本の読み聞かせで子どもを伸ばす2つの質問

読み聞かせを開始する時期も異なります。私が3歳児の母親および、5歳児の母親に行ったアンケートでは次の表のような結果となりました。

これを見ると、日本の母親は赤ちゃんがことばを発するようになるころから読み聞かせをはじめたと答えたのに対し、アメリカの母親は、それより1年ほどはやく読み聞かせをはじめていることがわかります。

(表:『ハーバードで学んだ最高の読み聞かせ』より)

また、「子どもとどんな絵本を読みますか?」という質問にもはっきりと違いが見られました。

アメリカでは、文字や数字、乗り物といった情報を扱う絵本、物語を読むことが多いのに対し、日本では、このようなタイプの絵本ではなく、『舌切りすずめ』や『桃太郎』といった昔話が多く読まれていることがわかります。昔話に出てくる倫理観を子どもたちに伝えたいと思っているのでしょう。

一方、アメリカの母親は絵本とことばの発達を関連づけていることがわかります。

言語教育にフォーカスした読み聞かせ手法

私は何も「アメリカはこうだから日本人もこうすべきだ」と言いたいわけではありません。アメリカ人の言語教育に対する意識が高いのは、日本語と英語の言語構造の違いに理由があります。

日本語の場合、まずひらがなを習得することになりますが、いくつかの例外はあるとしても、1つの音が1つの文字で表記されます。

それに対して、英語の場合、「a」という文字が、appleやcakeのように文字の組み合わせにより、発音が異なります。

「ABCソング」のように、一つひとつのアルファベットを読めたとしても、ひらがなの組み合わせのようにはいきません。

事実、私がアメリカで週に一度観察に訪れていた幼稚園でも、「子どもが文字を読めるようになるか」が親の関心事でした。

日本のように、本を好きになってもらいたい、豊かな感性を養いたい、といった目的が主ではなく、アメリカの親ははっきりと「ことばを教えるために絵本を読み聞かせる」という目的を持っているのです。

アメリカの親は、「きちんと教えなければ、自分の子どもが文字を読み書きできるようにならない」という危機感を切実に持っています。

だから、「勉強」として絵本の読み聞かせをするのです。

読み聞かせの目的を問うアンケート調査は、国内のさまざまな研究機関や企業が実施しています。その結果を踏まえると、回答はだいたい次の5つに集約されます。

①親子のコミュニケーションを図るため
②情操教育のため
③本好きになってもらうため/活字に慣れてもらうため
④集中力を養うため
⑤言語教育のため

実は、日本人がこれまで行ってきた読み聞かせは、?~?の理由に対する効果は期待できる反面、「?言語教育」、とくに、社会を生き抜くために大切なスキルである「思考力(自分で考える力)」や「読解力(文章の内容を理解する力)」「伝える力(自分の意見を言う力)」などを伸ばすことには向いていないのです。

一方、アメリカでは、子どもと対話しながら絵本の読み聞かせを行うことで「?言語教育」を行っており、言語教育にフォーカスした「ダイアロジック・リーディング」という読み聞かせの手法も考案されています。

「考える力」と「伝える力」が重要であることは日本の教育界も認識しています。

その一例が、大学入試における共通テストへの「記述式」の導入です。

子どもの能力を引き出す2つの問い

制度上の不安から現時点では棚上げされていますが、文部科学省が「知識偏重」の教育から「思考力重視」の教育にシフトしようとしていることは明らかです。

しかし、「考える力」「伝える力」というものは本来、受験勉強の一環として一朝一夕で身につけられるものではありません。ましてや先生から座学で教わることでもありません。