自分の直感を正しく受け止めるには、技術がいります。何かを決めるときには論理的に分析するのが正当で、直感で決めるのは正攻法でないと思いがちです。でも実のところ、感情に対する評価が低いのは、私たちが感情をどう読み解くべきか理解していないからです。最終的に「今回は、感情は考慮しない」と決める場合はあるかもしれませんが、感情の存在は認めるべきなのです。
投資に関する意思決定を分析したある実験では、決定を下す際に、プラスの感情かマイナスの感情かを問わず、もっとも強く明確な感情を抱いたと申告したグループが結果的によい投資判断をしました。最終的には抱いた感情に従って決断しなかった場合も含めての話です。
よい選択をした人は、自分の感情と向き合い、どの感情が何を意味していて有益なのかをよく考え、そうでない感情は整理していました。つまり、自分のあらゆる感情を吟味することで、1つひとつを自分でコントロールでき、振り回されずにいられたのです。
意思決定というと、なんらかの感情を抱くことと、その感情をもとに行動することを同一視している人が多くみられます。自分の感情を認識すると、その流れに圧倒されてしまうのです。
しかし感情は、根拠のない超自然のシグナルではありません。知識や経験、瞬時の情報処理作業のもと生じるものです(心理学者のウィリアム・ジェームズは本能的な感情を「体感している知識」と表現しています)。自分でも説明がつかないけれど、直感で確かに感じる、という経験はないでしょうか。そうした感覚は、選択肢を絞り優先順位をつける際の手がかりになります。
決断するときに感情と向き合うのが大切なもう1つの理由は、実際、行動を決める際はすでに感情が絡んでいるからです。純粋に論理だけで何かを選ぶのは不可能でしょう。シートベルトをするかしないかのような単純な選択でさえ、感情面の影響は切り離せません。
ただし、すべての感情を同等に検討する必要はありません。あなたの脳が発するすべての声を、よく吟味せずにあてにするのは危険です。心理学では「関連性のある感情」と「関連性のない感情」を区別しています。
関連性のある感情は、目の前にある選択に直接結びつく感情です。例えば昇進の希望を出すか否かを決めようとしていて、希望を出さなかった場合は後悔するだろうなと思うなら、関連性のある感情です。こうした感情は、選択肢を吟味して絞りこんでいく際の手がかりとして有効です。
関連性のない感情は、選択しようとしている事柄と直接の関係はないものの、決めようとする過程で何かと顔を出してきます。例えばリズがたんすの角に足の指をぶつけたり、駐車違反の切符を切られたりしたとします。むしゃくしゃした気分になったリズには、同僚が出してくる提案が急にどれも使えないレベルに思えてくるかもしれません。