さらには8月の6億円調達でも、DeNAは追加出資をしている。「昨年10月はDeNA出身の私個人を応援してくれていたが、今年8月は足元の数字を見て事業の可能性を信じてくれている感じがあった」と秋元。他にも大手ベンチャーキャピタルのジャフコが株主に加わっている。
起業して4年目を前に、秋元の心境にも変化が起きている。「最初のころはDeNAのような組織が完璧だと思っていた。でも食べチョクは、ゲーム業界と比べると成長速度は遅いし、高利益体質ではない。だからこそ会社の存在意義に共感してもらい、気持ちよく働ける組織にしたい」と考えるようになったという。
出口の見えないコロナ禍に対しては、短期的にはマイナスでも、長期的にはプラスと見ている。「農家が新しい販路を探して直売に興味を持ってくれるようになったのはプラス。農家にはどんな商品が喜ばれるのかなど、マーケット感覚を身につけてほしい。農家の意識改革は誰もやれていない未知なる領域」と秋元は指摘する。
国は農業の大規模化を後押しするが、高齢化や後継者不在で廃業する農家は増える一方だ。多くの農家にとって顧客は農協であり、「来年はこれを作るといくらで買う」と言われるまま、生産活動を続けるケースは少なくない。家族経営の零細な小規模農家ほど、その傾向は強くなりがちだ。
起業して間もない頃、秋元はショックを受けたことがある。地方に行くと直売所は活気にあふれ、農協が介在しない市場外流通が増えていることはデータにも表れていた。しかし、実際に農家に聞いてみると「自分で値付けできても、価格競争が激しいので叩き売りになる」という、厳しい現実を知らされたからだ。
意識の高い農家は、週末に都心で開催されるファーマーズマーケットに、赤字覚悟で出店する。高い出店料や駐車料、宿泊料を払ってでも、良質な固定客を捕まえるのが目的だ。
分断された生産地と消費地は、ネットならば、簡単につながることができる。だからこそ「私は誰もやろうとしない中小規模の農家を支援したい。小規模だからこそのよさがあるし、景観の維持などいろいろな役割がある」と秋元は言い切る。
思いを支えるのは自身の原体験である。実家も販路があって儲けがあれば、農家を廃業せずに済んだかもしれない。「毎年毎年、農家がいなくなっていく。食べチョクがあることで農業を続けられるようになってほしい」(秋元)というのが創業時からの変わらぬ思いだ。
ビビッドガーデンが見据えるのは、オンライン販売だけではない。「生産者支援を目的に、農家向けビジネスを手掛けたい。商品が売れるようになれば、人手や資材調達の必要性が出てくる。コストカットすると、利益が上がる農家も多いので、経営の課題の部分にも着手したい」(同)。日本の農業改革を見据え、壮大な野望を描く。(敬称略)