私が届ける野菜!「食べチョク」女社長の凄腕

オンライン直売所にはコロナ禍で販売先に困った農家の出品が殺到した(「食べチョク」サイトより)

食べチョクはCM効果も手伝い、8月に入っても過去最高の売上高を更新し続けている。1月から幹部採用を開始しており、社員数は20人まで増えた。6億円の資金調達も決定。秋元は「これまではゼロを1にする起業家フェーズだったが、今年は経営者元年にしたい」と力を込める。

農家の娘が”DeNAマフィア”になるまで

25歳で起業した秋元だが、およそベンチャーとは無縁に送ってきた人生である。神奈川県相模原市で農家を営む家に生まれ、母親からは「将来は公務員になりなさい」「農家は儲からないけど、株は儲かるから勉強しなさい」と言われ続けた。慶應義塾大学理工学部では金融工学を学び、就職活動では証券会社や東京証券取引所を受けていた。親の望む堅実で安定した生活を手に入れるはずだった。

だが、友人に誘われて参加した、DeNAの会社説明会で何かが弾けた。会長で創業者でもある南場智子の「リスクを取りまくる」という話に刺激を受け、その後にプレゼンテーションをした社員が入社1年目と知って驚いた。堂々とした姿から30歳位に見えたのだ。「とにかく社員の成長過程に魅力を感じた」(秋元)。

迷わずDeNAに入社、3年半で4つの事業を経験することになるが、このうち2つの事業が潰れている。「DeNAで学んだことは未知のことを恐れないマインド」と言うとおり、広告営業から新規事業の立ち上げ、ゲーム事業の版権ビジネスなど、さまざまな仕事に貪欲に取り組んだ。毎日が充実し、DeNAに骨を埋めるつもりだった。

秋元が社会人として活躍する間、実家は農業を廃業。久しぶりに帰った実家の荒れ果てた畑を見てショックを受けた。ここで初めて農業ビジネスを構想するのだが、同時にDeNAを辞めることを悟らなければならなかった。

次々と新規事業を立ち上げるDeNAでは、徹底的に市場をリサーチしたうえ、アグレッシブな目標を掲げることが求められる。3年後の売上高目標を100億円に設定されるなどザラ。とはいえ、農産物のECとなれば、市場規模は限られる。「ビジネスの領域が大きければ、社内での新規事業立ち上げを考えたかもしれないが、農業だから起業するしかなかった」(同)。

実際に起業すると、課題は山積みだった。無名のサイトに農産物を出品する生産者など簡単に現れるはずもない。秋元は生産者の元を訪ね、「農家の娘です。手伝わせてください」と仕事を手伝いながら懐に飛び込み、出品を増やしていった。ところが産直野菜のECなら、すでにオイシックスや生協などがあり、差別化し存在感を出していくことは容易ではなかった。

苦労したのは資金調達だ。2019年10月に2億円を調達したときは、「70社に断られた。何度も事業計画を見直しながら9カ月かかった」(秋元)。世間はベンチャーブームに沸き立っていたが、農業分野は投資家からのウケが悪かったのもある。

「これまではゼロを1にする起業家フェーズだったが、今年は経営者元年」と秋元社長は語る(撮影:今祥雄)

そこで秋元は株式上場を見据えて、徹底的に事業モデルや戦略を洗い直した。消費者にどうやって継続購入してもらえるか、仕組みを考えて、ネットを使ったマーケティングの強みを尖らせようと意識した。

うれしかったのは古巣のDeNAが出資者に加わってくれたことだ。出資が無事に決まって呼ばれた会では、憧れ続けた南場が参加者に食べチョクで扱うみかんを配ってくれた。