「所沢とかけて、”すてきな洋服”ととく。その心は?」
西武線所沢駅に直結する商業施設「グランエミオ所沢」が完成し、9月2日に開業式典が行われた。落語家の林家たい平さんがビデオメッセージでこんな謎かけを式典に寄せた。
「一度来(着)たら、また来(着)たくなる」
埼玉県秩父市出身の林家さんは子供の頃、父親に「東京に連れてってやる」と言われて、やってきた場所が所沢だったという。
所沢市の人口は34万人。東京まで行かなくてもたいがいのものは市内で買える。食事も映画も市内で楽しめる。早稲田大学がキャンパスを構える“学生の街”でもある。さらに10月には、隈研吾氏が建物を設計し、松岡正剛氏が館長を務める図書、博物、美術、アニメを融合した日本初の文化複合施設「角川武蔵野ミュージアム」がオープンし、文化面での充実度も増すことになる。
都市の機能として申し分ないだけでなく、緑も豊富だ。所沢駅の徒歩圏内には日本初の飛行場を再整備した広大な航空記念公園がある。足を延ばせば、「トトロの森」で知られる狭山丘陵がある。
所沢の開発に力を注ぐのが西武グループである。所沢駅前に西武鉄道の本社があるほか、リーグ3連覇を狙うプロ野球チーム、埼玉西武ライオンズは所沢がフランチャイズだ。市内には西武園ゆうえんちもあり、USJ再生の立役者である森岡毅氏をプロデューサーに迎え、昭和の町並みをコンセプトにリニューアル中。2021年春に完成すれば、話題を集めること間違いなしだ。所沢には実にたくさんのコンテンツがそろっている。
そこに新たな商業施設が加わった。開業式典で多くのお祝いメッセージが披露される中、式典に参加した所沢市の藤本正人市長のスピーチにちょっと気になる箇所があった。所沢市民、そして埼玉県民は地元にすばらしいコンテンツがたくさんあるにもかかわらず、街を東京と比較し、自然では東北や信州と比較してしまうのだという。
「自分たちが住む街にもっと自信を持ってほしい」というのが藤本市長の願いだ。開業式典で行われたトークショーの席上で、藤本市長はこの商業施設の開業をきっかけに「市民の意識が変わって、仕事でも学びでも自信を持てる街になるのではないか」とポジティブに締めくくったが、所沢市民や埼玉県民が地元に自信が持てないという発言には驚かされた。
所沢市の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、市民に地元への愛着や誇りを高めてもらうことを目指すとしており、その数値目標の一つとして、「市民意識調査」における「愛着を持っている」「どちらかというと持っている」の割合が9割を超えることをを挙げている。最新の2019年度版調査によれば、「愛着を持っている」「どちらかというと持っている」と回答者した人の割合は過去最高となる87.1%となったものの、目標の9割には届かない。
同調査では都市景観、健康施策、災害対策など行政サービスに関する詳細な調査を行なっているが、市の外側から見て、地元に自信を持てない理由として思い付くのは、この一言だ。
ダサイタマ。ダサイと埼玉を掛け合わせた造語で、埼玉県民を揶揄する意味を持つ。1980年代頃からこの言葉を耳にする機会が増えてきた。最近でも埼玉を徹底的にけなした映画『翔んで埼玉』が大ヒットし、民放各局がダサイタマをテーマにしたバラエティ番組を相次いで放映するなど、ダサイタマの連呼に収束の気配はない。
埼玉県民が表立って抗議する動きはない。それどころか自虐的に肯定しているという見方すらできる。だが、埼玉や所沢はすばらしい街だと自信を持てるかどうかは、行政側の改善努力だけで解決できる問題ではない。