また、2015年にキリンビールの人気商品「淡麗グリーンラベル」のリニューアルを記念して行われた「ツイッターおにごっこキャンペーン」も成功したソーシャル・マーケティング事例である。
この事例では、参加者はキャンペーンサイトでログインして、ツイッターで「#イインダヨ」とツイートする。そして、キリンのキャンペーンアカウントから、30分以内に「#グリーンダヨ」と返信されなければ、抽選で毎日100名に淡麗グリーンラベル缶6本パックが当たるという企画であった。
本キャンペーンは、消費者間でのクチコミも広がり、わずか1週間で総投稿数3万という大規模なキャンペーンに発展した。投稿者にはフォロワーがいるはずなので、実際に本商品のリニューアル情報を見た人は、その何倍にもなっただろう。
「おにごっこ」というゲーム性をキャンペーンに持ち込んで、消費者が自発的に参加するように促したことや、ターゲット層が参加しやすい時間帯の1時間(20~21時)に限定してキャンペーンを行ったことが、成功した要因と考えられる。
このようにソーシャル・マーケティングで成功するには、次の3つを意識することが肝要である。
例えば、ドロップボックスの事例では、消費者にとって明確なメリットがあり、消費者がプロモーションに自発的に参加するインセンティブがあった(②)。また、紹介システムは消費者のネットワークを利用してユーザーを増やしていく手法である(①)。さらに、キャンペーンの目的は「ユーザーを増やす」という1つに絞られていた(③)。ワービー・パーカーも同様だ。
ソーシャル・マーケティングは比較的安価で実施できるため、今では多くの企業が取り組んでいる。しかし実際には、ただやれば効果を生むという類のものではなく、場合によってはネット炎上などによってネガティブな効果を生んでしまう。上記のポイントを押さえ、適切な戦略を立てる必要がある。
ソーシャル・マーケティングのメリットとしては、若者に訴求できるという点も挙げられる。
近年「若者は車を買わなくなった」「飲み会に行かなくなった」などといわれている。しかも、シェアハウスやフリマアプリなど、「シェア」(消費者間での共同利用や中古品売買)を好む文化が浸透している。
このことから、若者のあいだでは新品購入や外食のような一般的な消費が落ち込んでおり、若者にフォーカスしてマーケティングをしても効果が薄いのではないかと思う人もいるだろう。
しかし一方で、私の研究チームが調査したところ、若者はLINEスタンプ購入やYouTube上での寄付、通販などネットに関係した消費は多く、意外なことに支出に占める交際費も非常に高いことがわかった。そう、若者は「お金を使う好きな物」が変わっただけなのである。CDは買わなくなったが、ライブ市場規模は年々増加しているのだ。
さらに、消費者同士のネットワークを生かした「シェア」についても、実はフリマアプリは新品市場を食うだけではないことがわかってきた。私が2020年に研究したところ、フリマアプリでシェアすることは、新品市場を奪うどころか、むしろ484億円も拡大させていることが明らかになったのである。
図1は、フリマアプリで人気の6つの分野において、どれくらいフリマアプリによって新品市場の規模が変化したか分析した結果を示したものだ。2万人を対象としたアンケート調査データを、計量経済学的に分析した結果である。