App StoreやGoogle Playを通じたアプリ配信の契約では、一貫してデジタルコンテンツの販売を行う場合、各ストアのアプリ内課金システムを使うことを求めている。例外はない。アプリ内課金を使うアプリの多くは無料で配信されており、配信システムの運営コストはプラットフォーマー(今回の場合はアップルとグーグル)が負っている。
小規模な売り上げしかないアプリ開発者は、独自に課金システムを構築しなくとも手軽に収益を上げられる利の大きな仕組みだが、Fortniteのようにメガヒットになると3割の手数料は巨額になる。
今年7月のApp StoreにおけるFortniteの売り上げから換算するとアップルは1カ月で330万ドルをFortniteのアプリ内課金から得ていることになる。当然ながら、この条件を知ったうえでEpic GamesはApp Store(あるいはGoogle Play)でゲームを配信していた。
無論、アップルやグーグルが独占的な地位を濫用し、法外な手数料を徴収しているのであれば彼らの主張も納得できる面があるが、前述したようにデジタル配信によるゲームコンテンツの配信手数料は3割が業界標準なのだ。
ゲームのビジネスモデルから遠い読者は、なぜソニーやマイクロソフト、任天堂に同じ主張をしないのか不思議に感じているかもしれない。
しかし、これらの企業は“ゲームを遊ぶ環境”に投資をしている。ハードウェアをゲームのために開発、販売してゲーム市場を作っている。Epic Gamesはゲームコミュニティーを育成するために作られているマーケットだから、そこに3割の手数料を支払うことは適切と考えているのだろう(公式なコメントをEpic Gamesが出しているわけではない)。
PCやMacにもFortniteは提供されているが、自社サイト(EGS)での配信であるため手数料はかからない(EGSの運営費のみ。さらにEGS自身の手数料設定は12%にすぎない)。
つまり、ゲームコミュニティーに対して投資を行っていない、単にゲームアプリの配布と決済しか行っていないプラットフォームなのだから、消費者の負担を減らすためにも手数料を安くすべきというわけだ。
直接、Epic Gamesに支払えば20%オフになると訴求しているのも、この主張が自社の利益を追求するのではなくユーザーに還元するための行動なのだと印象付けるためだろう。しかし、そこにはEpic Gamesの視点で見た自己主張しかなく、課金の妥当性に関する具体的な分析などはない。
このため、この動きがゲームユーザーの民主化運動にはならないと見ているが、一方で、Epic Gamesが配信している映像は純粋にゲームを楽しんでいる、細かな事情を知らないゲームファンに偏った情報と意識を植え付ける可能性がある。米中の貿易摩擦が高まる中、Epic Gamesの4割の資本を中国テンセントが保有していることも、今後は問題になってくるかもしれない。
なお、アップルとグーグルは両者とも、他のアプリ開発者との平等性を担保するために手数料の減額交渉は行わないこと、およびFortniteをアプリストアに戻すために交渉を続けることを表明している。